友情や色恋がなくても人同士は「ゆるくつながる」ことができる。『逃げるは恥だが役に立つ』の海野つなみさんの最新作『クロエマ Chloe et Emma』。1巻が6月13日に発売されました。

『クロエマ』(1) (KC KISS)

同棲していた彼氏が他の女性とデキ婚し、家を追い出されたエマ。古い大きな洋館の玄関先で野宿しようとしたところを、家主に見つかります。

 

この家主が、クロエ。彼女は、趣味でやっている占いでエマの未来を占ってあげます。

 

無愛想だけど親切なクロエは、エマを一晩だけ離れに泊めてあげることにしますが、その晩、母屋が火事になるアクシデントが起き、二人は期間限定で離れで同居することになります。

しかたなく始まった女ふたり暮らし。クロエの占いを使って、退屈しのぎに占いの店を週一だけオープンしたことで、二人の運命の輪が回りはじめるような回らないような⋯⋯? というストーリーです。

 

「持っている人」クロエと「持っていない人」エマの対比


エマは、母親が亡くなり天涯孤独。折半で同棲していた彼氏が、実家の太い女性とデキ婚をし、家を追い出され、住所不定に。それで失業保険も求職活動もできなくなってしまいました。『逃げ恥』のみくりのように、社会から「お前は半人前だよ」と放り出され、真面目に生きてきたのに「詰んだ」女性です。

 

一方、クロエは古い洋館に一人で住んでいて、働かなくても生活に不自由はしていない様子。つまり、「持っている人」クロエと、「持っていない人」エマという対比なのです。

ライフスタイルも当然異なります。クロエは料理に時間と手間をかけたい、いわゆる「丁寧な暮らしの人」なのに対し、エマは時短重視で、お金で手間をショートカットしたいタイプ。
クロエは、エマの「買った方が早い」という言葉に絶句しつつ、こう思うのです。

 

このシーン、否定も肯定もせず「そうなのか」と相手のスタイルを認めるクロエの考え方、好き⋯⋯! って思いました。
一方、エマは「生活に余裕がなくて自炊できなかった」貧困への道をゆっくりと歩んでいた女性だったことがわかります。

エマは本当に「持っていない人」なのか


感情よりも理性的に、エマの良いところを見出すクロエ。彼女はエマに、住む場所という「チャンス」を与えました。でもエマは何も「持っていない」人ではなく、彼女なりの対人スキルを「持っている」人だったのです。

 

哀しきライフハックですが、「相手を見つつ嫌われないギリギリのずうずうしさ」を使っている人は結構いるんじゃないでしょうか。

友情でも色恋でもないゆるいつながり


二人は近くの純喫茶で働くシモンくんのパフェに癒されています。彼は、クロエがよく通っていたファミレスのキッチン担当でした。

 

彼がファミレスを辞めた時、クロエが自分がオーナーの純喫茶で働かない? とスカウトしたのは、彼自身への下心ではなく、彼のパフェ作りの才能を評価したからです。

エマとクロエの間に友情が芽生える? とか、クロエは実はシモンくんに恋しているのかな? という浅はかな予想を見事に裏切ってくれます。友情もののドラマやラブストーリーの定石に洗脳されている自分が残念すぎる⋯⋯。

友情なし、色恋なし。でも人として相手を気にかける親切心はある。それがクロエという女性なのです。
そんな彼女だからこそ、エマやシモンくんに声をかけてゆるくつながることができる。これって、理想だなと思います。

海野つなみさんの昨今の作品を読むと、男女の結婚を情愛抜きでドライに捉えた『逃げ恥』、その後、結婚や恋愛に縛られない男女3人を描いた『スプートニク』など、人同士がゆるくつながることを描いてきている気がします。そんな海野さんが描く「ゆるいつながり」2023年最新版である本作は、これからの対人関係のヒントになりそうです。

 

『クロエマ Chloe et Emma』1話を試し読み!
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<作品紹介>
『クロエマ Chloe et Emma』
海野 つなみ (著)

古い洋館にひとりで住むお金持ち黒江と、いきなり仕事も恋も失った江間。ふたりが偶然出会い、とけたりとけなかったりする謎の数々と、生まれる最高のパフェたち。
海野つなみが描く、対照的な女ふたりの物語――。
”仲良くなくても一緒にいれます”

作者プロフィール 

海野 つなみ

1989年、第8回なかよし新人まんが賞入選の『お月様にお願い』で「なかよしデラックス」(1989年秋の号)よりデビュー。TVドラマ化もされた『逃げるは恥だが役に立つ』で第39回講談社漫画賞受賞。


構成/大槻由実子
編集/坂口彩