歌手を辞めようと思った時、引き留めてくれた人


──2009年に『のろま大将』でデビューされてから、すごくお忙しくて、2010年にパニック障害を発症して休養されましたよね。一度は歌手を辞めようと思ったそうですが、そのときはどういう心境でしたか。

大江裕さん(以下:大江):誰もが追い詰められるときもありますし、それに気づいていないときもあるんです。今、社会人の方で、休んでばっかりと思われている人の中にも、そういう病気の方もいらっしゃるんですよね。パニック障害を発症した当時は、歌うこと、音楽を聴くこと、テレビを観ること、これが全然できなかったんです。音楽を聴くだけで動悸がする。だから歌手を続けることは無理かなと思いました。僕は歌を続けたかったんですよ。だけど、迷惑をかけるのが嫌いなんです。北島先生や大好きな人に迷惑をかけるわけですから。だったらもう辞めた方がいいのかなと思うようになりました。病院の先生に聞いたら、環境を変えてくださいって言われました。そしたらすぐ治ります。あなたはこの仕事が合ってないから、こういう病気になってますと言うんです。

「パニック障害は乗り越えるのではなく、うまく付き合うもの」演歌歌手・大江裕の休養から復帰までの道のり_img1

 

大江:そうなった時に、辞めるのは簡単だよなと思いながらも、今まで皆さんに支えていただいて歌手になれたのに、ここで辞めちゃうかな、どうしようかな。そんなことを考えていた時に、電話が鳴ったわけですね。北島先生からの電話だったんです。事務所に来いって言われて。僕は土下座して、申し訳ございません、皆さんにご迷惑とご心配をおかけしてすみませんって。そうしたら北島先生が寄ってきて、これはもう辞めろって言われると思ったんです。そしたら僕の頭をずっと撫でるんです。よく頑張った。今はちょっと休みの時期だから、ゆっくりしなさい。俺のそばにいれば怖くないから。お前の歌がもう一度聞きたい。ステージの香りをかがせてやりたい。もう一度だけついて来い。そうおっしゃいました。

 

──北島先生というと、厳しい方というイメージがあったんですけど、大江さんの話を聞くと、とても優しい方ですよね。

大江:厳しくないですよ。皆さんが怖いイメージを作ってるだけなんです。もうすっごく優しいんです。よく頑張ったな、俺と旅をしようかと言われたときには、「はい」って言いました。そこから北島先生のもとで付き人として修行が始まるわけです。修行と言っても、大好きな北島先生のそばにいますから、楽しい道ですよね。