親の不安感情は子育ての三大リスクにつながる


相次ぐ拒否にもめげず、さらに「絶対にお小遣い制を敷いてください」と提案しました。子どもがお金を自己管理できるようになることは、親から子への信頼につながるからです。すると「だって一度にあげたら全部使っちゃうじゃないですか」ときます。はなから子どもを信じないばかりか、心配の感情をもって子育てのすべてを処理しています。

不審者と遭遇したらどうしよう。鍵をなくして家に入れなかったらどうしよう。想像しただけで不安に襲われます。

とはいえ、その不安感情はそのまま「干渉・矛盾・溺愛」という子育ての三大リスクにつながります。要するに子どもの自立や成長を阻むことになるのですが、上述した親御さんたちの子育てはその危険でいっぱいです。

高い見通し力を持つ高学歴親の皆さんは、自分の力で子どもの失敗リスクを回避させることに一所懸命。心配ばかりで子どもを信頼できません。子育てを見つめ直す余裕も、その機会もないため、信頼関係を築くという発想がありませんでした。

高学歴な親ほど陥りやすい「干渉・矛盾・溺愛」の子育てリスク。自分が子ども時代に受けた呪縛から逃れるには?_img0
 
 


子育ては「心配」を「信頼」に変える旅


当然ながら私自身にも葛藤はありました。心配な気持ちに押しつぶされそうになりながら、ここで頑張らなくてはと踏ん張ってきました。心配のほうが多い時期でも、過剰にならないよう手を差し伸べてきたつもりです。子どもの代わりに宿題をしたり、ランドセルの中身を整えたりはしませんでした。娘は忘れ物が多かったですが、私も多かったので「お母さんからの遺伝だね」と言うだけで干渉しませんでした。

そうやって必死で信頼して「信頼」の分量を増やしていくと「あれ、うちの子、鍵をなくしたことがない」と気づいたのです。

子どもは、自分で考え行動する力をつけていました。

子育ては「心配」を「信頼」に変えてゆく旅なのです。それは私が身をもって体験し確信できたことでもあります。

 

著者プロフィール
成田 奈緒子(なりた なおこ)さん

1963年、仙台市生まれ。神戸大学医学部卒業、医学博士。米国セントルイスワシントン大学医学部、獨協医科大学、筑波大学基礎医学系を経て2005年より文教大学教育学部特別支援教育専修准教授、2009年より同教授。2014年より子育て支援事業「子育て科学アクシス」代表。主な著書に『山中教授、同級生の小児脳科学者と子育てを語る』(山中伸弥氏と共著/講談社)、『子どもにいいこと大全』(主婦の友社)、『子どもが幸せになる「正しい睡眠」』(共著/‎産業編集センター)。

高学歴な親ほど陥りやすい「干渉・矛盾・溺愛」の子育てリスク。自分が子ども時代に受けた呪縛から逃れるには?_img2

『高学歴親という病』
著者:成田奈緒子 講談社 990円(税込)

高学歴な親はなぜ子育てに失敗するのか? 高学歴家庭に「引きこもり」が多いのはなぜなのか? ノーベル賞科学者・山中伸弥氏との共著『山中教授、同級生の小児脳科学者と子育てを語る』がベストセラーになった子育ての第一人者・成田奈緒子医師が、高学歴親のための「育児メソッド」を紹介します。子どもに理解があると思っている親ほど陥りやすい子育てリスクなど、図星を突かれる解説も多く、子育てしていない人も興味をそそられる一冊です。



写真:Shutterstock
構成/さくま健太

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