相談② 部下がトランスジェンダーだとカミングアウト。上司としてどんな配慮が必要ですか?

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村井さんのアドバイス:本人の性的指向と性自認を理解し、差別的言動が起きないようにすべきです。

まず、カミングアウトを受けたことの取扱いは、当事者の意向を必ず確認してください。個人的に知っておいてほしいという気持ちで告白している場合、上司の配慮によって周囲に露見することを恐れる人もいます。また、就労上の配慮を求める意図で相談してくることもあるので、情報を第三者に開示していいか、いいならばどの範囲まで許容できるかを必ず確認します。そのうえで、個人情報の取扱いには最大限の配慮が必要です。

 

具体的にできることとしては、就業規則の見直しや啓発研修によるハラスメントの防止といったソフト面での支援、トイレや更衣室の利用方法に工夫ができるかのハード面での取り組みが考えられます。本書執筆時点では、トランスジェンダーの性自認に応じたトイレ使用について、地裁、高裁において判断が揺れており、必ずしもトランスジェンダー当事者の意向に沿う必要までは明示されていません(※1)。しかし、本人の意向に沿う形で可能な範囲で配慮をすることは可能であると考えます。

就業規則にはSOGIハラ(※2)を含めたあらゆるハラスメントの禁止と、アウティングの禁止、防止措置を講じるための事業主としての態度を盛り込みましょう。SOGIハラ・アウティングもパワハラ防止法の対象になっているため、通常のハラスメントに対する対策と合わせて行います。セカンド・ハラスメントが起こらないよう、相談対応する窓口職員は十分な知識研修が必要です。

同時にお勧めしたいのは、社内に向けた啓発研修です。ハード面に当たるトイレや更衣室の利用は、たとえ会社が本人の性自認に沿った性別での使用を認めたとしても、周囲の理解がなければ当事者にはかえって酷なことになりかねません。当事者従業員が安心して職場で時間を過ごせるような環境を整えることを第一に、本人の意向を十分に確認して対応を講じましょう。

※1:トランスジェンダーの女性が、性同一性障害を会社(経済産業省)に告白し、女性職員として勤務したいと申し入れました。会社は女性用トイレの利用は認めたものの、勤務フロアから二階以上離れた階のトイレだったことが問題になりました。この裁判で最高裁は2023年7月11日に、トイレの使用制限を認めた対応は違法だとする判決を言い渡しました。

※2:Sexual Orientation(性的指向)と、Gender Identity(性自認)の頭文字を取った人の属性の略語で、ソジまたはソギと発音します。LGBTQが当事者だけを指すのに対し、SOGIは異性愛の人なども含めたすべての人が持っている属性を指すため、人権保護の観点などから普及している概念・呼称です。