相談⑤ 入社時に「退職しても同業他社に就職しない」という誓約書を書かされました。

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写真:Shutterstock

村井さんのアドバイス:退職時の地位や、扱っていた情報の種類によって判断されます。

在職中、労働者は労働契約法で定めるところにより、会社に対して誠実にその義務を履行する必要があります。このなかには競業禁止、つまり在職中の会社の競合企業に属したり、そのような企業を自ら興したりすることの禁止も含まれると解されます。しかし、退職後はこの義務が及びません。そのため、会社は自社の営業上の秘密を守るために、「就業規則」や「誓約書」で退職後の競業禁止義務を課そうとするのです。ところが、憲法は職業選択の自由を保障するので、こうした制限は無制限に認められるわけではありません。次のような一定の範囲内で認められるとしています(※1)

 

①技術的な秘密や、営業上のノウハウ等に係る秘密、多数回にわたる顧客への訪問や長期間の地道な営業活動の成果である顧客情報など企業運営上の重要な情報かどうか。
②競業禁止義務の対象者がその情報を扱える立場にあるかどうか。
③競業先のエリアについて地理的な限定がある場合は合理的なものかどうか。
④競業避止義務の存続期間が一定期間かどうか。特に一年を超える場合はそれに足る理由があるかどうか。
⑤もともとの顧客への営業行為など、禁止している活動内容や業種についての妥当性はあるかどうか。
⑥競業先において優遇されるような措置があるかどうか。

条件に当てはまる場合、一定の競業禁止規定は認められるものと考えられます。また、在籍元の会社が禁止への対価として金銭を支払う場合も有効性を考慮されます。もっとも、「同業他社に就職しない」という漠然とした制約では条件④や⑤に該当する情報はないので、競業就職を禁止することは事実上難しいでしょう。

※1:経済産業省「競業避止義務契約の有効性について」

著者プロフィール
著:村井 真子(むらい・まさこ)

社会保険労務士、キャリアコンサルタント。家業である総合士業事務所で経験を積み、2014年、愛知県豊橋市にて独立開業。中小企業庁、労働局、年金事務所等での行政協力業務を経験。あいち産業振興機構外部専門家。地方中小企業の企業理念を人事育成に落とし込んだ人事評価制度の構築、組織設計が強み。現在の関与先160社超。移住・結婚とキャリアを掛け合わせた労働者のウェルビーイング追及をするとともに、労務に関する原稿執筆、企業研修講師、労務顧問として活動している。

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構成/大槻由実子

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