「私は他の人とは違う」と思いたい自意識というのは、誰の心にも潜んでいるけれど、自分のも相手のも見えると恥ずかしくなってしまうもの。見てはいけない下着が見えてしまった時のような⋯⋯。

読切作品の『普通の人でいいのに!』や初連載作『まじめな会社員』で、「普通」な女性の自意識をイヤって言うほど細かーく表現し、話題になった冬野梅子さんの最新作『スルーロマンス』1巻が7月12日に発売されました。今回の主人公は30代の女性二人。これまた彼女たちの心理描写が細かすぎて、「わっ、これ自分だ⋯⋯」と感じるシーンがたくさんありすぎるので、30代じゃなくても、恋愛というフェーズはもう卒業したという人も是非読んでみてほしいのです。

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『スルーロマンス』(1)(モーニング KC)

細々と役者をしていたマリと、フリーランスの翠は高校時代の同級生。32歳になった二人がそれぞれフラれるところから話は始まります。失恋した時、落ち込みを隠しきれず感情のままに叫んで泣くマリと、辛さをこらえて仕事に没頭する翠は対照的。

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マリはすぐに次を探そうと良さそうな男性に目をつけるお気楽さ。フードライターでフードスタイリストの翠は気遣いができて慎重なタイプで、恋愛で時に大胆な行動に出ても失敗してしまうのでした。

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自分の外見に自信があるからこそ、男性に積極的にグイグイいく「考えるよりもまず動く」マリ。彼女は翠の家にもその強引さで泊まりはじめ、二人暮らし状態になります。

「誰かのために生きる人生を送りたい」二人は、おのおので真実の愛というものを探し求めることに。でもその探し方、手に入れるやり方は当然ながら全く違うのでした。

 

拒絶の連続vs.四季のように当たり前。恋愛も対照的な二人


翠は恋をしてもフラれることが多い人生でした。それをぽっちゃり体型のせいだと思って、仕事で自信をつけても心を折られるの繰り返し。

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一方、マリにとっては恋は四季のように自然発生する人生でした。翠が、男性をホテルに誘って断られた話を聞いて彼女はびっくりしています。

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けれど、フラれて独り身である事実は同じわけで。

「記号的な女」になりたくない二人


この二人は対照的なようで、似ているところがあります。それは「記号的な女」になりたくない点。
翠は、いいなと思っている男性に好きなタイプを聞かれて、必死に長々と答えようとします。

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一方、マリはフラれた元彼の家に押しかけ、自分のどこが悪かったのか聞き出そうとします。

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二人とも、自分だけは他の女と違うと思いたいし、相手にアピールしたい自意識があるんです。でも、相手の男性にはその「違い」アピは伝わっていない。
それに見ていると、マリは美人と言われてきて30代になってもプライドの高い女で、翠はぽっちゃりゆえにいつまでも恋愛で自信がない女。それぞれいくつかある女のタイプの典型的な一つ、ある意味「記号的な女」だといえるのではと思ってしまうんですよねえ⋯⋯。

足して二で割るとちょうどよさそうな二人の「記号的な」行動の解像度の高さに驚きます。確かにこういう人いる、というか、これは自分だ! と思い当たるフシあり。作者の冬野梅子さんは、人間を観察する視力が5.0くらいあるんじゃないでしょうか。普段、他人のどこをどうやって見ているのかが気になります。そして読んでいると、自分がマリ・翠、どっち寄りのタイプなのかがわかってくるのもおもしろしんどいという。
ここまで解像度高い女性のテンプレって、これまでの漫画では描かれてこなかったと思います。

おそらく、冬野さんが今30代だからその年代の女性の自意識を描いているのですが、この先、40代以上になった時、どんな女性の自意識を描いてくれるのか⋯⋯と楽しみになる作品です。

 

『スルーロマンス』第1話を試し読み!
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<作品紹介>
『スルーロマンス』
冬野 梅子 (著)

元・売れない役者の待宵マリとフードコーディネーター菅野翠、ともに32歳。同時期に恋に破れたふたりが、諦め半分に愛を求めつつ、始めるのは女ふたり暮らし。宝島社「このマンガがすごい!2023」オンナ編第③位『まじめな会社員』の冬野梅子最新作!

作者プロフィール 

冬野 梅子

2019年、『マッチングアプリで会った人だろ!』で 「清野とおるエッセイ漫画大賞」期待賞を受賞。その後、『普通の人でいいのに!』が公開されるやいなや、あまりにもリアルな自意識描写がTwitterを中心に話題となる。コロナ禍における、新種の孤独と人生のたのしみを描いた初連載作『まじめな会社員』に続き、現在コミックDAYSで『スルーロマンス』を連載中。
Twitterアカウント:@umek3o


構成/大槻由実子
編集/坂口彩
 

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