結婚して数年、自分勝手になった夫。不満を感じるけれど、もしかしたら妻の自分にも反省するところがあるのかも。自分を省みる妻に対し、自分が悪いなんてちっとも思っていない夫。崩壊しそうな「極限」状態の夫婦たちを描いた短編集『極限夫婦』は、シリアスな表紙とはうらはらに電子書籍サイトでの感想は「イライラする」「スカッとする」という2種類に分けられ、感情をとことん揺さぶる系の作品のようです。
最初に登場する妻は、厳しい指導をしてくれるドSな上司と社内恋愛の末に結婚したほんわり女子・桃子。彼女は専業主婦をしていて、夫が帰るとまずは今日やったことを報告。まるで職場のようですが、スパルタだけどたまに優しい男性が好みの桃子はそれでも幸せでした。
今日もまた、生活費や時間の遣い方が下手で怒られる。会社員時代もいつも失敗ばかりで彼に叱られていたけれど、叱られた後は「俺を頼れと言ってるんだ」といつもやさしい言葉をかけてくれた彼。でも今は叱られてばかりになってしまった。叱るのも彼なりの愛情表現? きっと愛しているから厳しくしてくれるんだと信じていましたが、夜も冷たく拒まれてしまいました。
彼に女として見直されたい。それには自由なお金が必要。それなら、と子どもができるまで職場復帰を考える桃子。オフィスラブの時のときめきがまた蘇るかも、と期待して元の職場に連絡をすると、彼が嘘をついていたことが発覚するのです。
2組目の妻は、ホームパーティで手料理を振る舞う一見理想的な夫をもつ杏子。結婚5年目、共働きで彼は家事にも協力的。いつも羨ましがられる「すてきな夫婦」なはずですが、夫はしきりに「妊活中だからアルコールはダメ」「子どもさえいれば完璧なのに」と責めるように言います。
早く子どもを作らなきゃと焦る杏子に、夫はある日とんでもない告白をします。さらに追い討ちをかける言葉を聞いてしまい、彼女の心はズタズタに。彼のカンペキを邪魔していたのは私だったの?
3組目の妻は「ささいなこと」が積み重なりすぎて夫への不満ばかりの亜紀。夫の実家で家政婦状態でこき使われ、あまりの忙しさに手伝ってほしいと夫に頼んでも返ってきた言葉に絶句。
「家事なんて雑用なんだし誰でもできるじゃん」と言い放つ彼。私もバイトをしているのに⋯⋯。私に里帰りさせてくれないのに、義実家との旅行はさっさと決めてくる夫。結婚したら私はこの家の召使いなの?
本作は、各夫婦のストーリーが前編・中編・後編と3つに分かれていて、前編・中編までは妻のモヤモヤとイライラゲージが溜まってゆき、まさに夫婦仲が「極限」状態に。でも、後編であっと驚く展開が! 悶々とする流れからスカッとカタルシスを感じられる構成がお見事なのです。
作者のきづきあきらさん・サトウナンキさんは夫婦ユニットで漫画を描かれています。そのせいでしょうか。夫婦それぞれの言動や感情表現が実に生々しい。崩壊のはじまりとなるのは、妻の尊厳を踏みにじるような夫の言動。
妻たちは傷つきながらも「自分に悪いところがあったのかな」と、自分を省みて歩み寄ろうとするのに、夫の方は自分が悪いとはまったく思っていないんですよね。それどころか時には、妻の自責の念を利用しているようにも見えます。夫婦間で問題が起きた時、妻は自責しますが、夫は自分が正しいと思って疑わない。そんな男女の違いが表現されているのです。
各夫婦編の扉絵は仲睦まじい二人の絵なのですが、話が進むにつれてどんどんその絵に亀裂が入っていきます。覆水盆に返らず。夫たちは取り返しのつかないことをしたのだという作者たちからのメッセージなのでしょう。
まずは最初の夫婦の「極限」状態を読んでみて、スカッとカタルシスを感じてみてください!
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<作品紹介>
『極限夫婦』
きづきあきら (著), サトウナンキ (著)
こんなはずじゃなかった。「結婚」という契約が人を変える。夫婦間に生まれる諍いの兆し。妻の尊厳を踏みにじる言動。そして「浮気」という名の裏切り。決意した妻の復讐がいま始まる――。結婚生活の果てにある夫婦の極限状態と夫への断罪を描く短編シリーズ。
構成/大槻由実子
編集/坂口彩
作者プロフィール:
きづきあきら・サトウナンキ
夫婦で作品製作を行っている。 2001年『ぼくの幸せな生活』でデビュー。『SWEET SCRAP』でアフタヌーン四季賞秋準入選している。『ヨイコノミライ!』や『モン・スール』、実写映画化もされた『うそつきパラドクス』などの作品を手がける。
Twitterアカウント:@kidukira @satoh_nanki