女性用風俗、略して「女風」。そこで働くセラピストってどんな人なの? 『僕は春をひさぐ~女風セラピストの日常~』は、作者の水谷緑さんが実際に女風セラピストの方に2年近くもの取材を重ねて描かれた作品です。


女風セラピストの掟、優しさと割り切り

主人公は女風セラピストの悠くん。昼間は会社員をしている彼の「夜の料金」は、2時間で2万5千円。決して安くはありませんが、彼の元には性欲だけでなく、さまざまな目的を持った女性たちがやってきます。
高齢処女であることを気にしているアラサー女性や、シチュエーションプレイにハマっている管理職の女性、出産後にセックスレスになった共働きの妻など⋯⋯。

 

彼のお客さんは20〜40代の女性、既婚・未婚は半々で職業はいろいろ。女性風俗の場合、みんな綺麗に身支度をして準備しているそうです。セラピストへの礼儀があるのでしょうか、それとも女性の場合、金銭が介在していても、相手の男性を恋愛相手と同様に思うからなのでしょうか。ここは男性との違いのような気がしますね。

 

注目なのは、彼のキャラ造形。


呼び方から部屋の照明や香りまで、いたせり尽せりな悠くんのホスピタリティ。
特に「おっ」と思ったのは、客が本気で拒否したい時に使う「セーフティワード」の存在。

 

「やめて」だと恥じらいからくる言葉なのか、本気で嫌がっているのかわからない。
この部分で、最近報道された「性的同意」の法改正を思い出しました。
女風での性行為はNGですが、こうして「本気の拒否」の線引きをしてくれているのは、女性の身体を守ってくれる配慮だなと感じ、ちょっと感動しちゃいます。
まあ、セラピスト側の安全も見込んでいるのでしょうが。

基本的にどんな年齢・容姿の女性もOKで、社会的主義と性癖をこうして切り分けてくれる悠くんのレベルの高さ⋯⋯。
もちろん見た目も麗しい彼なのですが、女性客が癒されるのは、この白黒つけないグレーゾーンを受け入れる懐の深さなのではないでしょうか。

 

優しい彼ですが、割り切るところはしっかり割り切ります。個人的なデートのように利用しようとする人には「また予約して」とひと時の夢から目覚めさせます。
そんな彼の素顔はどんな人間なのか? というと⋯⋯。

他人に興味なし、でも他人から評価されると嬉しいタイプ

昼間は会社員をしている彼。素の彼は「他人に興味がないよね?」と女風の店長に言われているし、どこでも寝られるということで自分なりのこだわりも薄そうなんです。
どんな相手にも合わせられるけれど、うまく境界線を引ける⋯⋯これってかなりの対人スキルを持っている証拠なのではないでしょうか。

 

彼がただ持つのは、強烈に「他人から評価されたい」欲求でした。
点数をつけられるのを望んでいるし、自分が必要とされているのに喜びを感じているようです。そんな究極の他人軸だからこそ、女風セラピストに適任といえるのかも。

彼は「友達でもなく、恋人でも知り合いでもない、遠い他人だから」こそ出せる部分があると女性客に言います。

彼自身も会社員として働くだけでは物足りなくて、この夜の仕事で誰かにとっての「遠い他人」になることで、満たされない心を満たしているのかもしれません。

 

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<作品紹介>
『僕は春をひさぐ~女風セラピストの日常~』
水谷 緑 (著)

女性用風俗⋯⋯略して「女風」 ここ数年で増加の一途をたどる業界で働くセラピスト・悠。彼のところには性欲だけではなく、さまざまな目的で女性がやってくる。お金を介した彼と彼女たちの、性と心の物語。
 

作者プロフィール 

水谷 緑

神奈川県出身。著書に『こころのナース夜野さん』(小学館)、『精神科ナースになったわけ』(イースト・プレス)、『大切な人が死ぬとき』(竹書房)、精神科医・斎藤環との共著『まんが やってみたくなるオープンダイアローグ』(医学書院)、『カモと犬、生きてる』(新紀元社)等。現在、マンガアプリPalcy(パルシィ)にて『僕は春をひさぐ~女風セラピストの日常〜』を連載中。
Twitterアカウント:@mizutanimidori


構成/大槻由実子
編集/坂口彩