「引きこもり」というと男性のイメージがありますが、女性も男性と同じくらいいると言われています。実は女性の方が引きこもりが長期化しやすいのだそう。その理由を知っていましたか。3月8日に1巻が発売された『再生のウズメ』は、28歳から12年間引きこもりの女性が主人公です。
40歳のウズメは引きこもりのニート。28歳の時、夢を諦めて実家に戻ってきて以来、働きもせず、ゴミだらけの自室でパソコンの前にいるのが日課です。最初は2、3ヵ月ゆっくりするつもりだったはずが気づけば12年経ち、彼女も両親も歳を取りました。
でも、幼い頃のウズメはこんな大人になるなんて思ってもいませんでした。小学生の頃の彼女は女優を目指していて、バラエティ番組に子役のエキストラとして出演したり、ドラマのオーディションに行ったりと自信満々な子だったのです。
今は、昼は近所にバレないように過ごし深夜にラーメン屋とコンビニに出かける怠惰な生活をしているウズメは、自分の未来が不安になっていました。そんな時、向かいに小学校の時の同級生が引っ越してくることを母親が隠していたのを知ります。今のこんな自分を同級生に知られたくないのになんで黙ってたの? と怒るウズメを母親は逆に叱りつけます。
捨てセリフを吐いて部屋に戻っていく娘を見て、母親は便利屋にウズメの部屋の掃除を勝手に依頼。それがきっかけで、ウズメはなんと代行サービスの”役者”になることに。
初仕事は、依頼者の浮気相手として依頼者の妻に会って謝るだけという「カンタンなお仕事」。彼女の12年間眠っていた役者魂が発揮される! と思いきや⋯⋯そこはひと味違う展開に。
代行業の依頼先でウズメが出会うのは、誰かにバカにされ、蔑まれている女性たち。下に見られているのは自覚しているけれど、その相手に面と向かって立ち向かえない。これはウズメと同じ状況なのです。
彼女たちの悔しさや怒りを聞き、ウズメは自分を励ますかのように応援することも。
本作では、女性の引きこもりの実態についても語られます。
女性の方が家庭内で交流をしているから、引きこもりでも親がずるずると養い続け、気づくと8050問題に直面して親子ともに路頭に迷ってしまうという事実を知っていましたか。これは顕在化されない高齢化問題の一つです。
さて、ウズメ・引きこもりと聞いて連想するのは、日本神話の天鈿女命(あまのうずめのみこと)。太陽神である天照大神(あまてらすおおみかみ)が天の岩屋戸に隠れた時、岩屋戸の前で自分の胸や陰部をさらけ出して踊った天鈿女命は、歌や踊り、芸能関係の神様と言われています。女優になりたかったウズメにはピッタリな神様なのですが、冒頭では、ウズメは自室=岩屋戸に隠れている側=天照大神で、母親が天鈿女命(あまのうずめのみこと)のポジションと、神話と名前が逆転しているのでは? と思います。
でも、代行業をする中で出会う女性に励ましの言葉をかける様子や、小学生のウズメが周りに笑われながらも女優を目指して必死で演技をしていたというエピソードを読むと、やっぱり彼女って天鈿女命の素質があるんだな、って感じるんです。自分をさらけ出して、誰かを救えるパワーを秘めているのに、これまでは周囲に潰されてきたのです。
作者の天堂きりんさんは、吉岡里帆さん主演でドラマ化された『きみが心に棲みついた』もそうでしたが、不器用に生きる女性を描くのがめちゃくちゃ上手いんです。本作では、周りに笑われ軽んじられて不器用に生きてきたからこそ、似たような境遇の誰かを救える女性を描こうとしているのかもしれません。ウズメはきっと、自分の人生だけでなく、誰かの人生も「再生」させる天鈿女命なのです。
『再生のウズメ』第1話を試し読み!
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<作品紹介>
『再生のウズメ』
天堂きりん (著)
女優になる夢が破れた28歳の頃から、実家に引きこもって12年経過した40歳のウズメ。結婚も仕事もしないまま、どう変わればいいかわからず自室にこもって怠惰な日々を送っている。そんなウズメを見かねた母は⋯⋯。
構成/大槻由実子
編集/坂口彩
作者プロフィール:
天堂きりん
漫画家。1995年『julie』でデビュー。代表作に、吉岡里帆さん主演でドラマ化された『きみが心に棲みついた』、『プッタネスカの恋』、『恋愛アナグラム』などがある。
Twitterアカウント:@tendon0308