Aセクシャル(アセクシャル)とは、他者に対して性的魅力や恋愛感情を感じないという性的マイノリティの一つです。厳密にいうと、性的魅力を感じないのがAセクシャル、恋愛感情を感じないのがアロマンティックと区別されるのだそうです。Aセクシャルの女性が、ゲイの男性と恋愛感情のない結婚生活を送る『わたしは壁になりたい』の3巻が4月1日に発売されました。

生身の人間を好きになったことがない・好きになれないAセクシャルのゆりこは、二次元専門のBL大好きな腐女子。彼女は親の圧力に負け、お見合い結婚をします。その相手はゲイ・岳朗太(がくろうた)。

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彼は片想い相手がいるのですが、家庭の事情で結婚をしないとならなかったのです。岳朗太が住む大きなお屋敷に引っ越してきたゆり子ですが、寝室は別。「良き夫」になるためという義務感から、ゆり子のBL本コレクションを読もうとする岳朗太。

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彼の片想い相手がお屋敷に訪れると、二人の様子にときめき、妄想を広げるゆり子。異性愛者の女性なら嫉妬するところですが、彼女の場合は完全にBLの傍観者となるのです。

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岳朗太の片想い相手である、草介は彼の幼馴染みで屋敷の庭師でした。

 

ゆり子は、フィクションの恋愛ならBLだけでなく、異性カップルでも楽しめるけれど、自分自身が恋愛をするのは絶対にできない。性的な接触も基本的にはすべてダメで、握手も苦手です。過去に男性と付き合ったことはあっても、「友達以上の『好き』がわからない」のを相手に見抜かれて別れていました。

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握手も苦手、なはずですが、なぜか岳朗太には大丈夫だというゆり子。こうして、恋愛感情の介在しない偽装結婚生活がスタートします。

ゆり子がBLにはまったのは学生時代。異性愛が皆無のBLの世界は、彼女にとって安心するものだったのです。

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BLの世界に浸っていると、自分が完全に恋愛の傍観者になれるという安心感を得られたゆり子。自分と同じようにリアルな恋愛に無関心だった高校時代のオタ友は、大学デビューとともに変わっていき、恋愛を求めるリア充になりました。ゆり子の「安全地帯」は昔と変わらず、BL。でも、その世界にも愛とセックスはあふれていて、傍観者にしかなれない自分への違和感に気づきはじめていたのでした。

このゆり子の過去パートは、Aセクシャルの心の内側を知ることができる貴重な部分です。
Aセクシャル(アセクシャル)は、性的魅力や恋愛感情を感じることが「ない」。ないものを証明するのは難しい、とはよく言います。LGBTQという言葉ができる前から、同性愛という性的指向の存在は世間に知られていましたが、Aセクシャルという性質はLGBTQの枠の外にあり、本人も自覚していないことも多いのではないでしょうか。

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恋愛や性愛と自分が完全に切り離せるBLの世界と、Aセクシャルであるゆり子は親和性が高いのでしょう。BL好きな女性でも、実際の恋愛や結婚をする人は当然ながら多いですから、BL好き=Aセクシャルとはとても言えないですが、BLに惹かれる女性の中には、「リアルな性愛はいらない」というAセクシャル的要素が潜んでいるケースもあるのかもしれません。

BL世界に出てくる男子たちの、恋焦がれる姿や人を想う姿に切なくなったり、心がぽかぽかしたりするゆり子は、感情自体が「ない」わけじゃないんです。恋愛や性欲関係なく、岳朗太に「味方ですから」と言い、他者から大切にされるというのは良いものだなぁと徐々に感じてゆく彼女の変化は、結婚の本質を示しているようです。

本作が「生きづらい人たち」の話なのに、ほっこり温かな雰囲気なのは、ゆり子も岳朗太も、マイノリティで社会に傷つけられた経験があっても、ひねくれずに他人への優しさを持ち続けているから。

ゆり子が「恋愛感情がないまま、5年、10年以上共に過ごすには何が必要なのだろうか」と考えるシーンがあります。それはきっと、相手の味方になろう、大切にしてあげよう、という気持ちが芽生えることなのかな、と思いました。

 

『わたしは壁になりたい』第1話を試し読み!
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<作品紹介>
『わたしは壁になりたい』
白野 ほなみ (著)

「人を好きになれない、なったことがない」Aセクシャルのゆりこは親の圧力によりお見合いをすることに。その相手は幼馴染に片想い中のゲイ・岳朗太だった。

 

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作者プロフィール
白野 ほなみ

漫画家、イラストレーター。ストーリーマンガを中心に活動中。著書に、美大を舞台にした心と身体の在り方に悩む生徒たちの青春群像劇『カラーレスガール』(芳文社)、Aセクシャルとゲイの結婚生活を描いた『わたしは壁になりたい』(KADOKAWA)がある。


構成/大槻由実子
編集/坂口彩

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