小さな子どもの無邪気な質問から思春期の娘や息子の真剣な悩みまで、「性」にまつわる疑問に自信を持って答えられる大人って、あまりいないのではないでしょうか? そんな世相を反映してか、25万部超の大ヒットとなっている「とある本」があります。今注目を集めるキーワードを深堀りする連載「ニュースなことば」、今回社会派ライターの渥美志保とミモレ編集部の坂口がお届けするテーマは「おうち性教育」です。「性教育」はなんのために必要なのか、学校教育で行われている「性教育」の現状はどんなものなのか、なぜ家庭での「性教育」が脚光を浴びているのかについて、前回に引き続き第2回目です。今回も、ベストセラー本『おうち性教育はじめます』の共著者である村瀬幸浩さん、さらに同書籍の編集担当の因田亜希子((株)KADOKAWA)さんにもご参加いただきます。
第1回「「生理に無知で悪かった」50年以上前、妻に謝罪したことが原点に。性教育の「草分け」が教える学校教育の現状」>>
アツミ:さて前回は「だからおうちで性教育」という話でしたが、とはいえ、お子さんから「セックスってなあに?」と聞かれたら、「うぐっ」と口ごもっちゃう人もきっといますよね。
坂口:いるでしょうねえ。
アツミ:そんなときにどうしたらいいの? という話は後ほどするとして。そもそも私たちって、なんでセックスについて口に出せないんでしょうね。
坂口:よくわかってない、というのもありますよね。そもそも親世代も、自分の知識に自信を持てるほど性教育をうけていないじゃないですか。
アツミ:それもありますね。でももし知ってたとしても、セックスっていうのはね、とオープンにフラットに語れる人は少なそうな。「いやらしい」「恥ずかしい」「下品」とか言われちゃいそうな気もするし。
因田亜希子さん『おうち性教育はじめます 一番やさしい!防犯・SEX・命の伝え方』(著:村瀬幸浩・フクチマミ)シリーズの担当編集。9歳児の母。
因田:実はこの本を発売したときも、そこが心配だったんです。つまり書店では手に取ってもらえないんじゃないかと。それで発売時期に合わせて「ネットの試し読み」で公開したんですが、そこからの広がりを見ると「きちんと知りたい」と思っている人はすごく増えているんですよね。でも私たちの世代でも「性に関することはいやらしい」と思い込んでいる方、抵抗がある方もまだまだ多くいらっしゃって。
村瀬:近現代の日本がやってきた性教育は「女性の純潔」を強調するものなんです。
アツミ:いわゆる「純潔教育」ですよね。極端な言い方をすれば「純潔を守る女性、夫に操をたてる妻が尊い!」というような。その裏返しとして「セックス=よからぬもの」となっちゃうわけですね。
村瀬:「セックスは男性の快楽のためのもの」であるとして、性や性交を卑しむ感覚があるんだと思います。こうした刷り込みは、進歩的な人たちの中にも、今なおあると思います。
アツミ:今でも学校で性教育をしようとすると、反対する親御さんもいるんでしょうか?
村瀬:少なくともこれまではすごく多かったです。講演会などをしても「先生はどうしてフリーセックスを勧めるのですか」って詰め寄られることもありました。そんなこと勧めるはずないんですが、そういう人の中では「性の自己決定=フリーセックス」になってしまうんです。
因田:たとえ科学的な学びの説明としてでも、特に性行為の具体的な描写はすごく抵抗感があるようです。「セックスを子供に勧めるのか」と言われてしまうんです。
アツミ:日本の場合、「セックス=よからぬもの」という刷り込みがあり、さらに「性教育=セックスを教えること」という思い込みがあり、それらを前提に「子供に性教育なんてけしからん!」となっちゃうわけですね。「おうちで性教育」を実践する前に、まずはその偏見をリセットする必要がありそうです。
村瀬幸浩さん東京教育大学(現筑波大)卒業後、私立和光高等学校保健体育科教諭として25年間勤務。この間総合学習として「人間と性」を担当。1989年同校退職後、25年間一橋大学、津田塾大学等でセクソロジーを講義した。現在一般社団法人“人間と性”教育研究協議会会員、日本思春期学会名誉会員。