繁殖のペアではなくとも、仲良く語り合う2羽の鵜たち
古式ゆかしい腰蓑姿の鵜匠は、巧みな手綱捌きで鵜たちと息の合った漁をします。赤松の篝火で川底を照らし、驚いて逃げる魚をすかさず鵜が飲み込む。最後は六艘の船が並んで進む「総がらみ」。船縁を叩きながら魚を一気に浅瀬に追い立て、火の粉が舞う中で、鵜たちがそれを獲り尽くす様は実に壮観です。
大迫力の総がらみの後、私の乗っている船のすぐ横に、漁を終えた鵜飼の船が停まりました。その賑やかなこと。仕事を終えた鵜たちは2羽ずつ並んで船縁に止まり、首を絡ませたり嘴を鳴らしたりしながらガアガアと何やら盛んに鳴き交わしています。「今日は魚多かったね」「いやー疲れたけど最高だった!」「最後に逃した鮎デカかった」「あれは悔しかった」などなど、興奮冷めやらぬ様子(想像)。篝火に近い特等席で羽を乾かすのは、最も経歴の長いペアです。船の上は、試合の後のロッカールームのような、達成感と解放感に満ちています。鳥たちのおしゃべりは、夜風に吹かれていつまでも続きました。
飽きずに眺めていたら、そばにいた地元の方がこんなことを教えてくれました。仲良く並んで語り合うペアは、一生続くバディなのだそうです。その名も「かたらい」。これは繁殖のためのつがいではなく、生活と仕事を共にするコンビ。鵜は外見で雌雄が判別できないため、性別関係なく訓練の段階でかたらいを組ませ、2羽で漁デビュー。1羽だといじめられてうまく集団に馴染めないことがあるけれど、“ひとかたらい”単位だとうまくいくのだそうです。
「かたらい同士でうっかり繁殖することはないのですか」
と尋ねてみたら
「ないですねえ。かたらいは、鵜にとって繁殖とは全く別の関係なんですよ」
2羽は生涯にわたって生活と仕事の同士として結ばれ、片方が死んでしまうと残された方も元気をなくしてしまうのだとか。
船縁で労るように顔を寄せるひとかたらいの後ろ姿を見ていたら、胸がジーンと熱くなりました。そうだ、私がほしいのはこんなつながり。それぞれ懸命に泳ぎ回り、大仕事の後にこうして並んで語り合える仲間が欲しい。
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