厳格な家庭に生まれ育ち、地元の大学を卒業したら親が決めた相手と結婚する――。こんなことが決まっていたら、誰だって逃げ出したくなります。女性マンガアプリ「Palcy」で連載中の『世界の果ては深愛』の主人公・真清冬花(ますみとうか)は、地方の旧家出身で、政治家の父にすべてを決められていました。親の反対を押し切って家を飛び出した後、どのようなことが待ち受けているのでしょうか。


親の反対を押し切り、学費と生活費をすべて自分でまかなう美大生。


真清冬花は、東京の美大に通う大学生。ある日、ルーブル美術館展に行きたくてポスターの前に佇んでいましたが、財布の中は所持金500円のみ。学割が適用されても1000円の入場券を買うことはできません。そこに、同級生で同じ油絵科の日吉洸平(ひよしこうへい)に、「今からみんなでルーブル美術館展行くんだけど」と声をかけられたのですが、「バイトがあるので」と速攻で断ります。

 

行きたいのはやまやまですが、自分で学費も生活費もまかなっているため、そんな余裕はどこにもありません。でも、理由はお金だけではないようです。ルーブル美術館展に向かう洸平とその友達の後ろ姿を眺める冬花は、「私には友達は必要ないんです」と言い聞かせていたのです。

 

アルバイト先に向かう冬花と入れ違いに現れたのは、制服姿の男子高校生。美しい顔立ちで、思わず洸平たちも見とれてしまうほどでした。この謎の高校生の正体はのちに判明します。

 

一方の冬花は、アルバイト先にいました。日中は大学に通い、夜は居酒屋で働いた後、朝までバニーガール姿でのガールズバーでのアルバイトをしている冬花は空腹の限界。バイト仲間のミレイから、残り物のサンドイッチを恵んでもらっているところでした。こんな生活をしていたら倒れてしまうのは間違いなく、冬花のことを心配するミレイは、美大を反対されて家を出てきたといっても、話せばわかってくれるかもしれないから、親に連絡してみることを勧めます。

 


異母兄弟の弟に、旧家を押し付けて逃げ出した罪悪感。


でも、冬花はそれが叶わないこととわかっていました。なぜなら冬花はとある地方都市の旧家出身。政治家の父は何よりも家柄や家名を重んじ、冬花の母が跡取り息子を産めないまま病でこの世を去るまで、母をなじっていたからです。さらには、母の四十九日を終えた翌日に、自分の愛人と再婚。愛人とその一人息子を、冬花が暮らす家に招き入れたのです。

冬花とは異母兄弟に当たる少年は雨音(あまね)という名前で、4歳年下でした。どこか寂しそうな雨音は冬花を慕い、絵を描く冬花のそばにいつもいました。冬花もそんな雨音を大切にしていましたが、父に猛反対された美大にどうしても行きたくて家を飛び出してしまいます。家柄のことしか考えない冷酷な父を雨音に押し付けて逃げ出したのも同然で、冬花が金銭的にどんなに苦しくても耐えるしかなく、そんな自分が友達を作って楽しく暮らすわけにはいけない、と思い詰めていたのです。

 

すでに家賃を滞納していた冬花は、居酒屋のアルバイト代が入る日までなんとか切り詰めてきたのですが、給料日当日に、居酒屋の店長が売上金を持ち逃げしてしまいました。呆然としていた冬花の耳に、「冬花ちゃん」という懐かしい呼び声が聞こえました。その声の主は、洸平たちの前に現れた謎の美しい男子高校生。彼は、冬花が家に残してきた雨音だったのです。

 

地方で暮らしているはずの雨音が、なぜ東京にいるのか冬花にはわかりませんでした。雨音と一緒にアパートに帰った冬花。雨音は、部屋にある描きかけの絵などを見て、「夢… 叶えたんだね」と笑みを浮かべます。しかし、その夢は弟の犠牲の上に成り立っていると思っている冬花の口からは、「ごめんなさい」という言葉しか出てきませんでした。

 

なのに雨音はやさしく冬花の手を握り、「どうして謝るの?」「全部 冬花ちゃんの好きなようにしていいんだよ」という言葉をかけます。さらには、アルバイトばかりの過酷な毎日で、痩せて肌が荒れている冬花を心配し、「僕 しばらくここに住むから」と宣言。

 

現在、高校3年生の雨音はとても優秀で、東京にあるT大学を受験予定。ホテル住まいで二次試験が終わるまで東京の予備校に通うことになっていて、そのホテル代を冬花が滞納していた家賃分として大家さんに払ったというのです。

弟の過剰な“愛”に戸惑う姉。


こうして数年ぶりに再会した異母兄弟が、アパートで暮らし始めることになります。雨音は学業が優秀なだけでなく、料理も上手で、冬花の弁当まで作ってくれるほど。ただし、少々過剰な慕いっぷりは、ただの異母兄弟とは思えません。

冬花は、自分のことをすごく慕っている雨音を素直に受け入れることができずにいます。実は、冬花は、実家を出るときに、雨音の真剣な眼差しからも逃げ出してきていたのです。一方の雨音ですが、母親より女であることを優先する女性を母に持ち、家柄や肩書にしか興味のない冬花の父に、自分の血を引く後継者として目を付けられ、再婚と同時に冬花の家に連れてこられたのですから、心から愛された経験がありませんでした。そんな雨音に、突然現れた異母兄弟であるにも関わらず、別け隔てなく仲良くしてくれた冬花は特別な存在だったのです。

重たすぎる弟の“愛”に戸惑う冬花は、美大に入りたいという自分の望みと引き換えに弟を実家に置き去りにしてしまったという罪悪感を抱えています。でも、一方で、美しく成長した弟に心を奪われてしまうこともあり、戸惑いが隠せません。しかし、愛がなく、冷たい旧家で、お互いを心の拠り所として生きてきた年月があるからこそ、二人がお互いを想う気持ちには特別なものがあります。この二人の関係性はこの先、どうなっていくのでしょうか?

中野まや花先生が、繊細で美しいタッチで描く、禁断の恋。単行本1巻が7月13日に出たばかり。夏休みの週末にどうぞ。

 

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『世界の果ては深愛』
中野まや花 講談社

親の反対を押し切り、東京の美大に通う女子大生の冬花。 厳格な実家でこれまで支え合ってきた弟を残し、1人で家を飛び出したことに対して罪悪感を感じていた。 そんなある日、家賃が払えず、途方にくれる彼女の前に現れたのは、大きくなった弟の雨音でーー!? 「僕のすべてを 好きにしていいんだよ」愛が重たい弟と禁断の同居生活!