理想の家が欲しかった、ただそれだけだったのに――。斎藤工さん監督・窪田正孝さん主演の映画が9月1日から上映される『スイート・マイホーム』。そのコミカライズ版は登場人物の表情や異様さがより際立ち、恐さが倍増しています。
冬が厳しい長野で、妻と生まれたばかりの娘と3人で暮らしているスポーツインストラクターの清沢賢二。あまりの寒さに、「まほうの家」と謳われた一軒のモデルハウスに心を奪われます。不動産会社に話を聞きに行くと、たった一台のエアコンで家中が暖まるというのだそう。
寒がりな妻と子のため、この家を建てる決心をする賢二でしたが、甘利という男性社員が異様な近づき方をしてきて、夫婦を不安にさせてきます。彼は問題社員らしいのですが⋯⋯。
怖がる夫婦に、最初に接客してくれた親切な女性社員の本田さんは、甘利をなるべく近づけないようにする、と約束してくれます。
実は、「幸せそう」な賢二には秘密がありました。同僚の女性との不倫関係、そして実家の事情。彼は元々東京の大学に通っていましたが、地元・長野に戻ってきたのです。その理由は、兄。
急に引きこもるようになり「なにかに監視されている」という妄想に取り憑かれた兄は、母親の手に負えなくなったため、弟の賢二は戻ってきたのでした。
「あたたかい家庭をつくりたい」と願っているわりに⋯⋯
賢二は「あたたかい家庭をつくりたい」と冒頭から願っています。けれど、彼の願いと言動はうらはらです。妻と子を大事にしているのかと思いきや、ナチュラルに不倫をして悪びれていないし、妄想に取り憑かれた兄に寄り添ったり、母親を助けることはせず、自分は自分で「まほうの家」を建てて家族3人で暮らそうとしています。大丈夫?
彼の思考回路がいまいち読めないんですよね。
そして、一番の不穏は不動産会社の男性社員・甘利。女性社員の本田さんは、彼は幸せそうな家族に嫉妬し、問題発言をしてしまうのだと言っていたのですが、なんでそんな社員を辞めさせないのでしょうか⋯⋯。
本田さんも最初はまともそうに見えて、「え、家にまで来る?」と、だんだん妙な行動が増えてくるのもおかしいんですよね。
原作は第十三回小説現代長編新人賞を受賞し、選考委員から「イヤミス」ならぬ「オゾミス(おぞましいミステリー)」と呼ばれています。でも、コミカライズの上巻時点ではまだそこまでのおぞましさは姿を表していません。ただ、賢二の妻と子以外の人物にちょっと狂気のかけらを感じるんです。
そして謎めいているのは、賢二一家が住む「まほうの家」の間取り図が描かれているところ。
この間取りがどんな意味を持つのか。
伝わってくるのは、「家」と家族がテーマだということ。どちらにも重大な欠陥があるのに直視していない⋯⋯のがポイントになるのでは。
さて、小説・コミカライズ・映画、あなたはどこから『スイート・マイホーム』の世界を体感してみますか?
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<作品紹介>
『スイート・マイホーム』
白雲 ひな (著), 神津 凛子 (原著)
冬が厳しい長野。スポーツインストラクターの清沢賢二は「まほうの家」と謳われた一軒のモデルハウスに心を奪われる。寒がりの妻と娘のために、たった一台のエアコンで家中を隅々まで暖められるというその家を建てる決心をする賢二だったが⋯⋯。2023年、斎藤工監督、窪田正孝主演で映画化も決定。恐ろしくも美しく残酷なサスペンスホラー!
構成/大槻由実子
編集/坂口彩
作者プロフィール
原作/神津凛子
1979年長野県生まれ。2018年、『スイート・マイホーム』(本作)で第13回小説現代長編新人賞を受賞し、デビュー。同作は主演に窪田正孝をむかえ、齊藤工監督で映画化が決定している。他の著作に『ママ』『サイレント 黙認』がある。
漫画/白雲ひな
北海道出身。テレマガネット発の新人漫画家。2020年日本デザイナー学院マンガ科卒業。女性ウケする青年漫画を目指して活動中。