真実を知ることを選ぶか。それとも知らないでいるか。
「赤い薬と青い薬("red pill" and "blue pill")」という言葉を知っていますか。映画『マトリックス』ファンならお馴染みなのですが、赤い薬を飲んで今の平穏な生活が壊れても真実を知りたいのか、それとも、青い薬を飲んで何も知らない状態であり続けたいのか、という二択のことです。
9月13日に2巻が発売される『天使の警醒ー16年後に目覚めた私ー』を読んで思い出したのは、この二択でした。

高校2年生の時に交通事故に遭って以来、16年間眠り続けていた主人公の笹本海深(うみ)。彼女は病院のベッドで覚醒した時には33歳になっていました。
過去のことを思い出せないまま、家族に囲まれながら気になったのは見知らぬ妹。

 

彼女は自分が事故に遭った時と同じ歳の、高校2年生でした。
両親と妹の住む家に迎え入れられた海深は、失った記憶を取り戻そうとしますが、両親は事故の詳細を隠そうとします。

 

思い出さなくてもいいんだよ、と笑顔で現状維持をうながす妹。
優しく接してくれる家族に、徐々にじわじわと不信感を抱き始める海深。

 

肉体年齢は33歳ですが、妹・希実(のぞみ)と同じ通信制の高校に一緒に通うことになった海深は、そこで山口という男性に出会います。彼を見た時、海深は何かを思い出しそうになりますが、何かはわからないのです⋯⋯。

そして彼女の部屋には、16年前に描いた覚えのない天使の絵があったのでした。その絵を見た時にも何かを思い出そうとするのですがやっぱりわからない。

海深は真実を知ろうと行動に出ます。

 

「登場人物、全員あやしい」状態


とにかく出てくる人物がみんな信じられないのです。妹は学校で海深を監視しているように写真を撮ったり、帰りが遅いとやたら気にしているし。両親は事故のことを何も言わないで、どこか他人行儀。
高校の山口という男は事故の真実を知っているかのようですが、思わせぶりなことしか言いません。

誰を信頼していいのか⋯⋯。

 

話が進むにつれ、海深は登場人物の一人を信じはじめるのですが、一番信頼できないのは、彼女自身のその感覚。なんで信じられるの? 危険な人物っぽくない、大丈夫? とあやしくなるのです。

「赤い薬」を選ぶ海深、「青い薬」を選ぶ両親、妹は⋯⋯どうする?


海深は『マトリックス』で言うところの「赤い薬」を飲むことを選ぶ一方、両親は「青い薬」で、娘にも真実を知らないままでいてほしいと願っています。妹は両親の側について、海深が真実を詮索しようとすると止めるような言動をします。

でも、彼女も海深の事故のすべてを知らないのでは、と思うシーンがあるんです。

 

あと気になったのは、タイトルの「警醒(けいせい)」。「警告を発して人の迷いを醒ますこと」という意味だそうで、普段あまり見ない言葉ですよね。誰が「天使」で、何を警告しているのでしょうか?
本作の公式サイトを見ると、「あなたの家族は本物ですか?」というコピーがついていてうわー⋯⋯そもそもこの家族が本物の家族じゃないのかも!? と怖くなりました。早く海深の事故の真相が知りたいです。どんなに壮絶なものだったとしても。

 

『天使の警醒ー16年後に目覚めた私ー』第1話を試し読み!
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<作品紹介>
『天使の警醒ー16年後に目覚めた私ー』
斉藤 倫 (著)

高校2年生で交通事故に遭い、眠り続けた笹本海深(うみ)。覚醒した16年後の世界には、眠る前の自分と同じ歳の見知らぬ妹がいた。過去の記憶が戻らないまま見知らぬ家に迎え入れられた海深。
事件の真相を隠蔽されることに強烈な違和感を覚え断片的な記憶を辿ろうとすると、温かく迎え入れた家族の目つきが変わりはじめて⋯⋯!?
いったい16年前に何が起きたのか。そして、目覚めたのは誰なのか⋯⋯。慟哭のファミリーサスペンス!

作者プロフィール 

斉藤倫

おうし座、O型。集英社「別冊マーガレット」でデビュー。代表作『路地裏しっぽ診療所』(全7巻、集英社刊)、『ノーにゃんこ ノーライフ』1~2巻(ホーム社刊)など多数。
Twitterアカウント:@rrrrins

 


構成/大槻由実子
編集/坂口彩