カジノを含む統合型リゾート(IR)の告知をめぐり、大阪府・大阪市が著名アーティストらの作品を許諾なしで使っていたことが明らかとなりました。官公庁や企業が許諾を得ずに作品を使ったり、事実上のタダ働きをクリエイターに要請する事例はこれまでも多数、報道されています。
一連の問題は、著作権など知的財債権に対する認識不足という言葉で片付けられがちですが、事態はもっと深刻です。形として見えにくいものにお金を払わないという日本社会の商習慣は、めぐりめぐって私たちが豊かになれない要因の一つになっている可能性が高いからです。
大阪府・大阪市のIR推進局は、施設のイメージ図や動画を公表資料に掲載していましたが、著名美術家の奈良美智氏や村上隆氏の作品が無断で使用されていました。奈良氏の作品については、使用許諾を求める連絡があったものの奈良氏が断っていたことや、村上氏については連絡がなかったことなどが報道で明らかとなっています。
このイメージ図や動画は事業者から提供を受けたもので、事業者は外部の制作会社に制作を依頼していたとのことですから、作品の無断利用を行ったのは受託企業である可能性が高いと思われます。しかしながら、奈良氏の作品が展示されている青森美術館が使用許諾について確認の問い合わせをしたにもかかわらず、大阪府・大阪市は許諾を得ている旨の回答をしたとのことですから、もしそれが事実であれば、管理体制の不備は免れないでしょう。
こうした事態が明るみに出ると、たいていの場合、「知的財産権に関する認識をしっかりと持ち 、今後は適切に対応していきたい」などといった説明が行われるのですが、一連のトラブルは簡単にはなくならないと筆者は考えています。
その理由は、依然として多くの日本人が、物理的に形が見えないモノには価値を見出すことができず、お金を払う必要がない、あるいは支払いを誤魔化すことができるという感覚を根強く持っているからです。
日本は工業製品の大量生産に成功し、戦後の焼け野原から豊かな社会を作ることに成功しました。ところが1990年代以降、日本経済は成長をストップさせてしまい、私たちの生活は貧しくなるばかりです。
日本経済の貧困化には様々な原因があり、ひとことで説明できるものではありませんが、形のないもの、目に見えにくいものに対価を払わないという日本人の感覚が大きく影響していることは間違いありません。
以前から日本では、情報を提供するビジネスにはなかなかお金を支払わないという社会習慣があり、情報を扱う企業の発達が遅れたという経緯があります。多くの先進国は、工業製品の開発で新興国に追いつかれても、その後は付加価値の高いビジネスにシフトすることで豊かな社会を維持しています。その原動力のひとつとなっているのが、コンテンツや情報、ソフトウェアなど目に見えない商品です。
- 1
- 2
Comment