夏が終わり、秋の気配を感じ始めると、たとえまだ着るほどに肌寒くなくても「アウター」の存在が頭をよぎります。年齢を重ね、毎シーズン新しいものに買い換えたい気持ちは薄れたとしても、長く愛せる一着にもなかなか出会えずにいる⋯⋯ そんな人も少なくないのではないでしょうか。そこから抜け出すヒントとなるのが、新刊『MY BASIC,MY ICONS 10年後も着たい服』も好評な人気スタイリスト福田麻琴さんの「アウター論」。詳しく教えていただきます。


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私がアウターへの投資を惜しまない理由

「ここだけは投資することにしています。高いものが好きとか、ブランドが好き、というわけではないのですが、アウターはコート、ジャケット共に、素材や仕立てにごまかしが利きません。だから、なるべく投資してもいいと思えるようなアイテムを選ぶことにしています。もちろんお値段はしますが、その値段の価値がとにかくわかりやすい。やっぱり高いものはそれなりの理由があると感じます」

それを実感させてくれたのが、サンローランのジャケットに袖を通したとき。「あぁ、これが本物か」と感動したことを今でも鮮明に覚えているといいます。

「仕立ての良さというのは、心地良さと直結しています。着心地が良いから毎日着る、毎日着るなら投資してもいいのでは? 年に一度しか登場しないアイテムより、よっぽどお金をかける意味があると思います。

そしてこのアウターたちは何度も何年も着るほどに、自分にピッタリと馴染んできてます。いい素材はちゃんとそれを実感させてくれるんです。まるで体の一部みたいにしっくりくるジャケットや、とても軽いロングコート、快適な機能性のあるものまで。それぞれに合うシチュエーションがあると思いますが、どの場面でもいいアウターは私をハッピーにしてくれます。TPOや防寒だけじゃなく、自信を持たせてくれるもの。自分に似合うものを着るのが一番ですが、たまには、これに〝似合う自分になりたい〟というものがあってもいいと思うんです。憧れは自信に変わり、いつか〝らしい〟アイテムになるのをゆっくりと楽しむ。それが私がアウターに投資する理由です」

今では定番となった、スタイリスト福田さんの愛すべきアウターの一部を紹介してもらいます。
 

まさに〝日本工芸〟サンヨーのトレンチコート

 

ひょんなことでサンヨーコートが作られるファクトリーを訪れることになり、その規模や整った生産ライン、そして働く方たちのプロフェッショナルな仕事に衝撃を受けたという福田さん。

「パターン、裁断、縫製、アイロン……と、それぞれのプロがそれぞれの仕事をする。もちろん一枚の服を作るのにひとりの人が全てやる工程もクラフト感があって素晴らしいと思いますが、あの規模のファクトリーとなるとラインにのせてやりくりするのが通常です。襟だけで何十年も作り続けているなんて職人さんもいましたよ。それってすごいことだと思います。この経験から色々なファクトリーやアトリエを訪れて職人さんの話を聞くのが大好きになったのですが、日本は元々こういう職人さんがもの作りをしていた文化があると思います。

この国が誇れるものはまだまだたくさんある、と。ハイテクな技術はもちろんですが、昔ながらのもの作りもやっぱり魅力的。まさに日本工芸。もうこのコートはその域に達していると感じます。そして着るたびに、ちょっと恥ずかしがりながら取材に答えてくれたファクトリーのみなさんを思い出します。たくさんのプロフェッショナル技と心がつまった一枚のトレンチコート。あたたかくて心地良いのは素材のおかげだけじゃないはず。一生大切に着たいと思います」
 

ずっと着られる〝紺ブレ〟を探し続けて
出会ったセリーヌの一着

 

“紺ブレ”は、福田さんが“オリーブ少女”だったときから憧れ続けてきたアイテム。でも、いくつかのネイビージャケットを通ってきましたが、どれも一生物や定番にするには何かもの足りなく、 10年以上探し続けていたそう。そんなある日のこと、引き寄せられるようにお店に入って出会ったのがセリーヌの“紺ブレ”。

「まさか紺ブレがあるなんて! こうなるともう都合よく運命を感じるしかない。その偶然の出会いにも驚きを隠せませんでしたが、お値段にも素直に驚きました。うぅむ、どうなんだろうか。私が知っているジャケットの値段じゃないぞ、と。だけど、今まで購入してきたネイビージャケットのお値段を合計したら、もしかしてこれに近い金額になるかもしれない。本当に今後買い替えず、一生着ようという意気込みならもしかして高くないのかも。運命なら仕方がないじゃないか! 

数ヵ月あれやこれや考えましたが、試着したら最後。『これください。』しか言えませんでした(笑)。上質な素材、完璧な縫製、体にジャストサイズなのに窮屈さはこれっぽちもなく、むしろ着てないみたいに動きやすい。ジャケットを着る時は気持ちが〝オン〟になることが重要です。体はラクチンだけど気持ちが引き締まる、まさにそれが叶うのがこのジャケットでした」


トレンチコート、紺ブレのほか、タイリスト福田麻琴さんが愛する永遠の定番について綴った新刊が発売になりました。詳しくは下記からチェックしてみ下さい。福田さんならではの優しい視点で綴られる文章と美しい写真も必見です。
 

 

<Information>
恋人のような、親友のような、家族のような
そんな服との出会い方
『MY BASIC,MY ICONS 10年後も着たい服』

福田麻琴著 定価 1400 円+税 
発行 イースト・プレス

スタイリスト歴20年、ミモレでもおなじみの福田麻琴さん。たくさんの服と出会ってきた福田さんが本当にこれだけは廃ることがないと感じる「永遠の定番アイテムたち」を紹介した一冊。なぜ定番なのか、なにがそんなに人を惹きつけるのかを、出会いのエピソードなどをまじえながら綴ります。

登場するアイテムは、「アニエスベーのカーディガンプレッション」「プチバトーのカットソー」など手にやすいものから、「シャネルのツイードジャケット」「サンローランのテーラードジャケット」など高級ブランドの名品まで、価格も時代も問わない、福田さん独自の視点で選び抜いたものだけ。

着るだけで幸せになり、はくだけで自分らしくいられる服に出会ってみませんか?


撮影/魚地武大(TENT/静物)
構成/幸山梨奈