「利他」の心は、最初は「自分のため」でいい
——めちゃくちゃ素直ですね。
古溪 素直さだけはありましたね。患者さんは、お医者さんのところには月1回行くだけ。なので、本当はちゃんと機械を使っていないのに、先生に怒られないよう「使ってます」と嘘をつくこともあったんです。お医者さんは、それが嘘か本当かわからないから、「何だか数値が良くないな」と疑問に思うわけです。僕が患者さんに電話すると、お医者さんじゃないから、「実際最近使ってないんだよね」「ちょっと合わなくて」と率直な意見を教えてくれる。それをそのままお医者さんに話したら、すごく感謝されて、結果的に全部うちの製品に変えてくれたんです。
一番最初の理由は、数字を上げたいっていう不純なものです。でも人の中のために何かすると、結果的に数字とかお金が後から現れてくる。数字のためにやるのは、逆効果だと気づきました。資本主義の世の中に生きているからこそ、非資本主義のことでアプローチをすると、結果的に資本主義的な成果が得られるんだなって思いました。「利他」の心とは、“誰かのために”という心ですが、結果的に巡り巡って自分のためになる。
古溪 自分のためになるから誰かのためになることをやるっていうのは、またちょっと違うんですけど、でも入口は別にそれでいいと思うんです。もしかしたら、いいことが返ってくるかもと思って人に優しくしていけば、自然にそういう心が身についてきます。
AとBで迷ったら、どちらが他の人のためになるかを考えて選んでいけばいい。僕だって、出家して何かに目覚めて、急に世のため人のためにと動くようになったわけではありません。もともとめちゃくちゃ資本主義の人間だし、自分が利己的な人間だっていうのを自覚しています。けれど、その自分を否定するんじゃなく、そんな自分もかわいいなと愛でてあげる。そういう自分もいるけど、いかんいかんっていう、毎日その繰り返しなんですよね。そうすると、自然と利他の心も育っていくと思うんです。
『君と僕と諸行無常と。 TikTok僧侶の幸福論』
著者:古溪光大 徳間書店 1980円(税込)
Tiktokで仏教の教えやお経の解説、また現代の若者たちの恋愛や人間関係、人生についての悩み相談に乗り、人気を博している曹洞宗雲門寺の僧侶・古溪(ふるたに)さん。本書では、受験戦争への絶望、就職した企業での気づき、出家し仏教に生きることを決めた理由など、自身の半生について飾り気のない言葉で綴りながら、SNSに寄せられた悩みにも回答。同性婚、推し活、毒親、怒りとの向き合い方など、仏教の教えを交えながらも、古溪さんならではの言葉で温かなエールを送ります。
撮影/神谷美寛
取材・文/ヒオカ
構成/金澤英恵
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