「土の前では無力」。それでも農業で心が癒やされた
——そんな中で、ご自身が心身ともにきつかったとき、新潟で農業に触れたそうですね。
小林 ずっとがむしゃらに働いてきて、疲れてしまったんですね。そんなときに両親から「リフレッシュしてみたら?」と言われて、誘われて行ったのが最初です。「ちょっと疲れてるし、行こうかな」ぐらいの気持ちだったんですが、田んぼで“農業体験”をする中で、美味しい、楽しい、という嬉しさが芽生えてきて。何より、農作業中に食べるごはんがすっごく美味しかったんです。結局毎年行くようになり、そうこうしているうちにリフレッシュできて、仕事も順調に戻っていきました。
——農業を始めて、都会で身についた価値観が変化したりしましたか?
小林 とにかく「土の前では無力」ということですね。農業では見た目より防水性だったり、防汚性がないといけません。機能性の高い手袋をしないと、土が手袋に中に入ってきて作業が捗らないですし。もちろん、ハイヒールなんて履いていたら土に埋まっちゃうので、服装も仕草も“かわいい”の一点では突破できないものがありました。今まで大切にしていたものは、自然の前では意味がないんだと痛感しましたね。
おにぎりが教えてくれた「生きる、食べる」ということ
——外面的なことにこだわる、という価値が揺らいだんですね。
小林 いろんな価値観があるんだということがわかりました。私は疲れていた頃、都会に固執して、都会の価値観の中でしか考えられなかった。でも新潟で農業をして、自然の中でおいしいものを食べて、こういうことを「生きる」っていうのかもなって。食べる、ということに対しても誰かが作らないと食べ物がないとか、すごく原始的な発見をいっぱいしました。農作業をするとすごく疲れるから、夜は“バタンキュー”って倒れるように眠る。朝起きるとまた農作業をする。その繰り返しの中で、新しい価値観に出会えた感じです。でも、それがまさか「仕事」になるとは思ってなかったので、何でもやってみるものですね。
——都会で生活していると、生きている、食べるというより、「消費してる」っていう感じですよね。味わうというより、とにかく安いものでお腹を満たすというか。
小林 たしかに!「食べること」自体が、健康や生活を維持するための“義務”みたいに感じるときもあります。新潟では農作業の合間におにぎりを毎回食べるのですが、そのおにぎりが絶品なんですよ。「うんま! おにぎり超うま!」って。「何これ!」みたいな。「いや、普通の米のおにぎりだよ」って笑われるんですけど、やっぱりお米農家さんのお米って違うんですよね。
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