「本当に命を守る効果のある検査」とは? 有効性を判断するための厳しい視点
山田:では、厚生労働省が推奨するがん検診を例に説明していきましょう。厚生労働省が推奨する5大がん検診には、それぞれ対象年齢がありますよね。大腸がん検診であれば、40歳からが対象です。これは、ある程度がんである可能性の高い年齢層にターゲットを絞ることで、より「事前確率」を高めた検診を提供しよう、という工夫なんですよ。
編集:なるほど! そうすれば、無駄に不安になる方が少ないですね。
山田:「線虫がん検査」の場合、こうした工夫は全くないですよね。
ちなみに、厚生労働省が推奨しているがん検診は、がん検診を受けた人と受けてない人を比較して、受けた人が受けてない人に比べてどのくらい大腸がんによる死亡あるいはあらゆる理由での死亡が減っているか、ということまでを検証しているんです。
そのような検証の結果、50歳以上の方に大腸がん検診として大腸内視鏡検査を行った場合、約半分ほど大腸がんによる死亡リスクを低減する、という有効性が示されています。ここまでわかってくれば、この検診には「がんによる死亡を防ぐ効果」「命を助ける効果」があると言えますよね。
編集:すごいですね……。そこまで検証して、やっと「その検査に有効性がある」と判断しているのですね。
山田:まだありますよ。たとえば、その検査を5年間隔で受けるべきか、それとも1年間隔でよいのか、という頻度の視点も検証しています。その結果、大腸がん検診として大腸内視鏡検査をするなら、10年間隔でよい、ということもわかっています。プラスして、厚生労働省が推奨するがん検診については、人の寿命を一年伸ばすのに一体どの程度のコストがかかっているかも確認をしています。
このように、本来がん検診というのは、費用対効果が見合っているのか、特定のがんによる死亡をきちんと防ぐのか、という有効性がきちんとクリアされなくては推奨できないのです。こうした検証は、線虫がん検査では残念ながら行われていません。
長くなりましたが、2重目の問題も、なんとなくご理解いただけましたでしょうか?
編集:だんだんと分かってきました! 検査は、「感度が高ければいいというわけではない」こと、「命を守る効果があるかを厳しく検証する視点が必要である」ということが理解できました。厚生労働省が推奨している5大がん検診が、いかに様々な方向からしっかりと有効性を検証されたものであったか、ということが学べたのもよかったです。
ただやはり、なかなか理解が難しいテーマでした……!
山田:そうですね。専門家でないと、理解しにくいことも多いテーマだったかもしれません。そもそも5大がん検診の中でも、まだまだアップデートが必要なものもありますし、もし疑問や不安に思う検査があれば、かかりつけの医師などにその検査で得られるメリット・デメリットを説明してもらう、というのも一手かもしれませんよ。
編集:この「線虫がん検査」に関しては、CMもホームページもすごくわかりやすく、「メリットしかない」と私の目には写っていたので、今回の先生の解説、とても勉強になりました。
山田:そうですね。わかりやすく魅力をアピールされると興味を引かれてしまいますが、医療は健康や命に直結するものなので、電化製品と同じように取り扱わない方がよい、ということを最後にお伝えしておきたいです。
電化製品は、新しい方が機能も多いですし、有名なタレントさんが使っているから使ってみようかな、と考えてもあまり害はありませんよね。ただ、医療に関しては同じように判断してしまうと、軽はずみな判断が健康を害することにつながってしまう可能性もありますので、注意していただければと思います。
編集:なるほど! ついついわかりやすさに惹かれてしまいそうになりますが、医療と電化製品を同じように取り扱わないという視点、とても大切ですね。本日もありがとうございました!
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構成/新里百合子
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