別居で介護をしている人は1割強
超高齢化社会に突入した今、認知症や介護が必要な方は増加し続けています。在宅で介護をできるか否かの境目は要介護3。それより介護度が進んだ要介護4と5の方は、半数以上が施設へ入居しています(公益財団法人 生命保険文化センター「生命保険に関する全国実態調査/介護を行った場所」より)。
また、厚生労働省が2022年に行った「国民生活基礎調査」では、「別居で介護をしている人は全体の11.8%」という数字が出ています。
遠距離介護とは、介護が必要になった親を遠方から通ってサポートすること。距離が遠いほど交通費や移動に時間がかかることから、介護する側の負担が大きくなりやすいという問題があります。
美由紀さんのご両親は熊本在住とのこと。移動は飛行機になり、交通費や移動時間の問題が重くのしかかってくると思います。今はLCCや早割を使えばリーズナブルにチケットを取れる時代になりましたが、介護というのはなかなか予定を立てにくいもの。そんな時は、各航空会社が出している介護帰省割引を活用してみてください。介護割については、以前こちらの記事で詳しく書いています。
遠距離介護の秘訣
わたし渋澤は、父が要支援1、母が要介護1の時に、5年ほど働きながら遠距離介護を行っていました。その際に心掛けたのは、地元のネットワークづくりと防犯です。IoTやITなどの最新デバイスの助けを借りて介護しやすい環境を整えるという方法もありますが、同時に「①ご近所や親戚との関係構築」「②ケアマネジャーとの連携」「③リスク対策」を徹底してみてはいかがでしょうか。
①ご近所や親戚との関係構築
ご近所の方や親戚とは、手土産や挨拶なども欠かさず良い関係づくりを心掛けました。配達された牛乳が何本もしまわれない、何日か姿が見えない時などは、様子を確認してもらうことも。そのうち、こちらから頼まなくても「見知らぬ人が自宅の敷地にいたから何か御用?と声を掛けたわ」と報告を受けたこともあります。
また、自転車で移動できる範囲に住む親戚にはカギを預け、地元の介護キーパーソンとしてサポートしてもらっていました。万が一に備えて連絡できる主治医も決めておき、いずれの方にも24時間連絡してもらって構わないことを伝え、電話番号も知らせておきました。
②ケアマネジャーとの連携
自宅と実家は新幹線で1.5時間、鈍行でも3.5時間くらいの距離だったので、毎月日時を決めて帰省し、ケアプランの相談をしました。また、ケアマネジャーにある程度の裁量権を与えて、急用時には自分が不在でも動きやすいように配慮しました。
③リスク対策
お金に関しては、現金が必要になっても困らないよう、一定の生活費を安全な場所に保管していました。また、入院時や不在時の新聞や牛乳配達の停止の連絡と前払い対応、郵便物の管理をご近所に依頼。緊急・救急時の対応として、冷蔵庫に救急医療情報キットを保管し、近所や親戚のキーパーソンに事前に知らせるなどの対応もしました。
遠距離介護も月1だったら対応できるかも、と思っていただけたかもしれません。私は、いない間はデイサービスと訪問介護にお願いして、要介護2までは遠距離でも対応できました。帰省の際は、定期的な病院の付き添いやケアマネジャーとの面談で、情報共有は忘れずに。
遠距離介護も見守り家電で安心!
先ほど「IoTやITの助けを借りて……」と書きましたが、私が介護をしていた時代に比べると世の中のIoT 、IT化が急速に進み、便利なサービスや家電が増えてきました。たとえば、親が日々どうしているのか気になるという程度のものであれば、見守り家電を導入してみてはいかがでしょうか。
見守り家電とは、離れて暮らす親が家電を使うとセンサーが反応し、それによって子が使用状況を確認できるというもの。冷蔵庫や空気清浄機、エアコンなど、さまざまな家電を通して親の様子を観察することができるので、導入しない手はありません。詳しくはこちらの記事をご覧ください。
仕事はどうする!?そんな時は介護休業&介護休暇
遠距離介護というと、仕事をしている方は一体どうすれば……という話になるかもしれません。そんな時は「介護休業制度」と「介護休暇制度」をうまく活用してみてください。
「介護休業」は、介護対象者1人につき3回まで、通算93日まで休める制度。休業期間中は、賃金の月額67%が介護休業給付金として支給されます。93日というと3ヵ月ほど。介護が平均5年続くことを考えると短く感じると思いますが、これはそもそも親が急に倒れて介護体制を整える時などに活用する制度として設けられたものです。パートや派遣でも、一定の要件を満たせば取得できます。
最大3回まで分割取得できるので、遠距離の場合は介護認定後のサービス決定の際や、在宅から施設へ移る際、また入退院時の付き添いなど、分けて利用するのも1つの手です。
「介護休暇」は、介護対象者1人につき年5日まで休める制度。両親を2人同時に介護している場合など、介護対象者が2人であれば10日まで休めます。1日または時間単位で取得できるので、介護や通院の付き添い、介護サービスの手続き、ケアマネジャーとの打ち合わせなど、有休と組み合わせながら定期的な帰省で使うと良いかもしれません。
転勤族は介護情報を早めに収集
転勤が多い会社に勤めている方は、親元の介護情報を早めに収集しておくことも大切です。急に介護が必要になったり、困りごとが出てきた際に役立ちます。
転勤に関しては、今は大丈夫だとしても今後については分かりません。労働政策研究・研修機構の調査によると、「転勤で困難に感じること」という質問に対し、全体の7割超が「介護」と回答。それほど他人事ではない問題なのです。
とある大手企業では、近年、転勤内示で親の介護を理由に転勤ができないと断られるケースも多いと人事担当者は話しています。実はこれは不当なものではなく、介護中の従業員の転勤について事業主が配慮を行うことは、介護休業法できちんと定められていること。
ただし、法律はあっても実際は配慮を受けられないことも多々あります。ある40代の女性は、高齢の父親を1人で残すことができずに地方転勤を拒んだ結果、正社員として働いていた企業を退職し、パートへ変更したという事例も実際にありました。
転勤に関わらず、今後介護で働き方に考慮すべきことがある可能性があるならば、日頃から1on1で上司に状況を伝えたり、人事に対応を相談するなどしておくと安心かもしれません。
最後に渋澤より。親が75歳を過ぎたら、一度親の居住エリアの地域包括支援センターに連絡してみることをオススメします。そうすることで、その地域で行われている介護予防事業や介護予防サービスを知ることができるので、その情報を親に提供してみてください。また、親のことだけでなく、ご自身についても介護保険サービスや施設情報を気にかけていくことをオススメします。
構成/渋澤和世
取材・文/井手朋子
イラスト/Sumi
編集/佐野倫子
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