昨今、目にする機会が増えた「リスキリング」という言葉。日本では「学び直し」と訳され、「個人で隙間時間に頑張って勉強する」といったイメージが独り歩きしています。AIの発展で将来人間の仕事が奪われる――という話もよく聞きますが、だからといって、AIに代替されないスキルを自分で身に着けるというのも、なんだか実感が伴わず、自分とは遠い話、と感じる方も多いのではないでしょうか。

一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブ代表理事の後藤宗明さんは、リスキリングは本来、「個人レベルの学び直しではない」と言います。誤解されているというリスキリングの本来の意味について、後藤さんと国家資格キャリアコンサルタントでもある川良編集長が語り合います。


「リスキリング=学び直し」という大きな誤解


川良咲子編集長(以下、川良) 「リスキリング」という言葉は、2年ぐらい前から急激に世の中に普及してきましたよね。それ以前は、実は私もあまり聞いたことがなく、「リスキリングって何?」というところから学び始めたんです。今でも「実はよくわからない」という方も少なくないと思うので、まずは後藤さんが考える「リスキリング」について教えていただけますか。

 


後藤宗明さん(以下、後藤) 「リスキリング(Reskilling)」は、私がアメリカで仕事をしていた2015年あたりから徐々にメディアで取り上げられるようになりました。AIやロボットによる自動化、テクノロジーの導入によって失業する人が増える社会課題を「技術的失業」といいます。そうした“失われていく仕事”から、デジタル分野やグリーン分野といった成長事業に移行していくために、新たな技術や知識の習得、つまりリスキリングが必要だ、というのが現在海外で定着している考えです。ですが残念ながら、日本ではそうした意味としては広がらなかったんです。

川良 そもそも、アメリカでリスキリングという言葉が登場したのは、そんなに前なんですね。

一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブ 代表理事 後藤宗明さん(写真左)と、mi-mollet編集長/国家資格キャリアコンサルタント 川良咲子。

後藤 日本のリスキリングは、世界と比較すると7年遅れぐらいの状態です。理由として、企業で意思決定をする上層部の方々が、「リスキリングが重要だ」という海外の動きを掴んでいなかったこと、必要性を感じていなかったことが大きい。政治家や経営者の方たちが、自らリスキリングに取り組まなかったことも要因でしょう。

その雰囲気が大きく変わったのは、今までの働き方が通用しなくなった新型コロナウイルスによるパンデミックのタイミングです。日本ではデジタル活用の視点が大きく抜け落ちている企業が少なくなかった。コロナ禍に初めて、「あれ? うちの会社にはデジタルのことがわかる人が誰もいない」と気づいたと思うんです。

川良 強制的に変わらざるを得ない状況になって、ようやく変わり始めたという感じなんですね。