育児を家庭から社会に開き、多くの人の学びの機会に
子育ての”常識”を根本から見直すべき時期が来ています。まずは「人は共同養育をするように進化してきた」ということに立ち返り、「男は子育てに向いていない・女なら子育てに向いているはずだ」という思い込みをなくすことが極めて重要です。また、あるべき家族の形を決めて、それから外れたらまともな子育てができないと脅すのではなく、人それぞれに異なる条件のもとで子育てをしなくてはならないのだから、どのような立場の人にも必要な支援が行き渡るようにしなくてはなりません。
最近も、不登校は親の責任だとか、子どもだけで留守番させたら虐待とみなして通報とか、的外れな政治家の発言が報じられています。私からの大真面目な提案なのですが、子育て経験の有無に関わらず、政治家や企業幹部は必ず赤ん坊と接する親性研修を受けるようにしてはどうか。それもVIP研修ではなく、一般の人と一緒にやるのです。子育てに向いているかどうかは個人差があるでしょうが、他人の子のお世話を経験することで、それまで想像が及ばなかったことに多少は想像が及び、関心を持つことができるようになるかもしれません。何より肝心なのは「親性脳の働きに男女差はない」「ケアワークは簡単な仕事ではない」ということを改めて身をもって知ることです。
今は若者が親戚や近所の子どもと接する機会がとても少なくなっています。これからは小学校、中高、大学、さらには入社後の研修と、育ちながら何度も乳幼児のお世話をする経験をする機会を持てるようにするといいですね。私自身、出産するまでほぼ子どもとの接触経験ゼロだったので、そんな機会があったら良かったのになあと思います。
もちろん、このヒトの「親性」が「だから子供を産め」「親になってこそ一人前」という旧来の言説に利用されることがないように注意しなくてはなりません。親性を「他者をケアする性質」として捉える視点が大切です。育児を家庭に閉じ込めるのではなく、社会に開いて多くの人の学びの機会にすることが、結果として他者に対する想像力の豊かな人を増やし、安心して制度や人に頼れる生き心地のいい世の中を作るのではないでしょうか。
前回記事「「生き方を強制するやり方はうまくいかない」あるフィンランド女性の言葉と埼玉・留守番禁止条例から感じたこと【小島慶子】」はこちら>>
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