宝塚歌劇団 雪組の元トップスター、望海風斗さん。20年近くいた宝塚を辞めるときはまさにコロナ禍のまっただなかで、予定していた退団時期が半年以上も後ろにずれ込んでしまうという事態も発生しました。当時、エンターテインメント自体がかなり厳しい状態で、辞めたあとのことはもちろん、踏み出した先にある世界で「自分は何者かも分からない」という状況にあったそうです。

そこから少しずつ、歩みを進めていった望海風斗さん。「外に向ける目標」から「自分の中に価値を見出す」という作業に変わっていったという望海さんの、「第二幕」での足跡に迫ります。

望海風斗さんが「私にはできない...」の堂々巡りをやめて気づいた、「ゆっくり迷えばいい」_img0
 

望海風斗(のぞみ・ふうと)さん
10月19日生まれ、神奈川県横浜市出身。2003年に宝塚歌劇団入団、同年花組に配属。2017年から雪組トップスターに就任し、三拍子揃った実力の中でも、特に歌唱力に秀でた男役として活躍。『ファントム』『ONCE UPON A TIME IN AMERICA』『fff-フォルティッシッシモ-』などの代表作で主演を演じる。2021年4月11日、宝塚歌劇団を退団。同年に行われたコンサートツアー『SPERO』では全国で5万人を動員するなど、その人気はとどまるところを知らない。退団後の出演作には、『INTO THE WOODS』や『next to normal』『ガイズ&ドールズ』などがある。2023年は『ドリームガールズ』『ムーラン・ルージュ!』などに出演。来年は日本発のオリジナルミュージカル『イザボー』での主演が決まっている。

 

先が見えないまま走ってきて、よかった


——20年間在団していた宝塚歌劇団を卒業してから2年半が経ち、初めての書籍『望海風斗 第二幕』も出版されました。お気持ちをお聞かせください。

望海風斗さん(以下、望海) ずっと連載していた(※)ものではありますが、連載に入りきらなかったもの、新たにインタビューや対談させていただいたものを含めて、すべてが一冊に収まっています。退団してから最も変化があったこの2年半は、年齢を重ねても振り返りたい時期でもありますし、すごく貴重な時間でした。ですから、こうして本にしていただけてすごく嬉しいです。
※『日経エンタテインメント!』(日経BP)2022年3月号〜2023年9月号まで、連載「望海風斗 Canta, Vivi!」を担当。

——宝塚歌劇団を卒業されて始まった「第二幕」。書籍のタイトルでもありますが、ご自身でどのように振り返りますか?

望海 ただただ駆け抜けた2年半でした。本当に充実した時間でしたし、まさか自分がこんな変化をするとも思っていなくて……(苦笑)。先が見えないまま走ってきたおかげで、本当にいろいろな方に出会って、いろいろな作品にも出合うことができました。
 

宝塚を辞めて、今はいい意味で「無責任」

望海風斗さんが「私にはできない...」の堂々巡りをやめて気づいた、「ゆっくり迷えばいい」_img1

 

——書籍にとても印象的な言葉がありました。現役時代はとても「男臭い、男役」と評されることが多かった望海さんが、卒業されてから「性格が柔らかくなった」と。在団中は毎日「戦いが始まる」という覚悟で臨まれていたことなど、男役トップスターとして過ごした日々と今とを比べると、気持ちにも大きな変化があったことを思わせる一節でした。

望海 宝塚を辞めてからも舞台に立っていますが、歌劇団でのあの空気感や責任感は独特だったと思います。最初は宝塚の延長で舞台に立とうとしていたのですが、当たり前ですが、周りにそんな方はいらっしゃらなくて(笑)。「ああ、こんなに何も背負わなくていいんだ」と、そのときに思いました。もしかしたら、宝塚のときもそこまで背負う必要はなかったのかもしれませんが、やはり宝塚の男役、しかもトップスターへの憧れが大きかったからこそ、あえて自分で「背負いたい」と思っていたんでしょうね。

望海 今はいい意味で「無責任」です(笑)。自分自身もどうなるのか分からないからこそ、今目の前にあることをちゃんとやる。いろいろな方との出会いも刺激になりますし、本当にあらゆることが新鮮なんです。皆さん、ちゃんと自分の生活を送りながら舞台に立っていらして、「なるほど、これからは私もそういう生き方をしていくんだな」と気付きました。それが、柔らかさに繋がっているのだと思います。