出会いの一つとして当たり前になったマッチングアプリですが、画面の中では嘘をつくことは簡単です。対面で会って顔を確認したとしても、あなたが会ったのは本当に「彼」なのでしょうか? 彼のどこを見て「信じられる」と言えるのか。アプリをきっかけに婚約者に出会った30代女性が主人公の恋愛サスペンス『きみが誰でも愛してる』の1巻が11月13日に発売されました。

派遣で受付嬢をしているユキは、マッチングアプリで出会った婚約者のヨウジが、心の拠り所になっています。ヨウジは麗しい外見を持ち、塾を経営しているハイスペ男子でした。

 

病気の父親に一刻も早く花嫁姿を見せてあげたい一心で、アプリで結婚相手を探していたユキは、高条件すぎる彼に一目惚れ。彼もユキが気に入ったようで、出会って数週間で彼女は結婚を申し込まれました。

⋯⋯ですが、その後、彼は経営している会社の共同経営者が逃げたということで、借金を払わないといけなくなったと言います。彼はそこで驚くようなお願いをしました。

 

彼の支援者となってくれる男性を探すため、ユキはアプリで高年収の男性を見つけては彼に紹介していたようです。ですが、ある日、彼女の職場に一人の男が現れます。
彼は真島俊と言い、ユキは昨年、彼の兄をヨウジに紹介していたことが判明します。

 

俊は、ユキに兄について何か知っていないかと聞きに来たのでした――。
ヨウジは一体何者なのか? というユキの疑問からストーリーが展開していきます。

 

ヨウジだけでなく、ユキの思考回路がちょっと怖い


この話、読んでいくと怖い部分がいくつも見つかるのです。
まず怖いなと思うのは、ヨウジがユキに提案してきたマッチングアプリの使い方。女性(ユキ)を使って、高収入の男性を見つけ、支援者になってもらう。相手の男性からすると完全に「騙された案件」なのではないでしょうか。でも、俊の兄の場合は、別の女性をあてがうことでうまくいっているようですが、にしてもこんな発想が出てくるのが恐ろしいですよね。マッチングアプリってそんな使い方もできるの?

次に、ユキの思考回路もちょっと怖いのです。彼女は、父親のために結婚相手を探していたのですが、「結婚したくてたまらない」「結婚しないとだめだ」という気持ちがかなり強くて、強迫観念にかられているよう。相手への思いよりも、結婚したい欲求で動いているような印象を受けます。

 

本作の作者・萩原ケイクさんは前作の『それでも愛を誓いますか?』では、セックスレスに悩む30代妻の煮詰めた渇望感を描いてきましたが、本作のユキにも形は違えど、似たような「渇望」を感じます。

でも⋯⋯結婚のためなら、彼女は相手のことを何も知らなくても好きになるのでしょうか?

なぜか主人公・ユキに感情移入ができない気がする?


どうも奇妙な感じがするんですよ。

ヨウジの経営者・高収入・イケメンというスペックに飛びついたにしても、彼のことを安易に信じすぎでは、と。だって、マッチングアプリで出会った人ですよ。彼女は英語の勉強をしているという描写があるのに、このご時世、マッチングアプリで出会った彼のことをネットで調べないなんてあるだろうか? そんなに人を疑わないで生きているなんてあるんだろうか、って違和感があるんです。

 

そう、主人公のユキにいまいち感情移入ができない。
彼女に感じるこの奇妙さはなんだろう⋯⋯? と首をかしげながら読み進めていくと、5話で「え、そういうことなの?」と明らかに。ネタバレになるので詳しくは明かせませんが、もう一度冒頭から読み返したくなる「種」なのです。まずは1話を読んでみてください!

 

『きみが誰でも愛してる』第1話を試し読み!
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<作品紹介>
『きみが誰でも愛してる』
萩原 ケイク (著)

32歳、派遣社員のユキ。母親とは死別し、大病を患った父親は死ぬまでに彼女の花嫁姿を見たいと言う。閉塞感を抱えながら生きるユキの救いはただひとつ。マッチングアプリで出会った自慢の婚約者・ヨウジの存在だ。だが、ユキは次第にヨウジの“裏”の顔に気づき始めていく――。『それでも愛を誓いますか?』の萩原ケイクが描く、歪な愛と裏切りのラブ・サスペンス!

作者プロフィール:
萩原 ケイク
2019年、めちゃコミックと双葉社の協業企画「めちゃコミックfufu」レーベルで、『それでも愛を誓いますか?』を連載。2021年10月にはテレビドラマ化され、テレビ朝日ほかで放送された。その他の作品に『木更津くんの××が見たい』『軍人流求婚~100年物の純愛~』などがある。
X(旧Twitter)アカウント:@keikuhw


構成/大槻由実子
編集/坂口彩