人生の折り返し地点、いろんな経験値を積んできた多くのミドルエイジ世代の女性たちに降りかかってくる新たな「ミッション」、それは親の介護。仕事や結婚、出産とは違うこれまで経験したことのないジャンルで、親といえども他人の都合で動かねばならないという難しいミッションです。菅野美穂さん主演でドラマ化された『ゆりあ先生の赤い糸』の作者の新作『みっしょん!!』は、認知症の母を介護する54歳主婦が「ポルシェの妖精」と出会って、「私のための一日」を取り戻すストーリーです。

「本屋のオバちゃん」として小さな書店を営む54歳の主婦・未知は、店番と、認知症になった87歳の母親の介護に明け暮れる日々を過ごしています。父親はすでに他界し、かつて優しかった夫は、母親に合わせたやわらかめの食事がイヤなのか、一人で外食をしに行ってしまうように。

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長男は引きこもり状態で未知のことを手伝うわけでもなく、母親の世話をするのは実質、未知一人。母親にイライラしながらも眉間のシワを伸ばしている彼女はこう思うのでした。

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誰かのための毎日を過ごす彼女の前に、ある日、レオパードのジャケットにミニスカ・サングラスのベリーショートの女性が颯爽と現れます。

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真っ赤なポルシェに乗って走り去る彼女の姿を忘れられなくなった未知は、自分もあんなふうに一人で運転してどこかに行きたい、と思うのでした。その夢は夢のままでは終わらず、未知は一歩を踏み出すのです⋯⋯!

 

認知症の母と堂々巡りの日常


未知の日常はまさしく「高齢化社会」のリアルです。何度も繰り返される介護を一人で抱える閉塞感がコミカルな中にもずっしり感じられます。たとえば、パジャマのまま店に降りてきてしまう母親を未知が悟す場面。

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イライラを噛み殺す未知の表情が切ないです。
そして、家族の中で認知症の母親と対峙しているのは未知だけ。夫は、介護という問題をさりげなく避けて通っているのです。

若き日の恋のなれの果ては「仕事以外何もできないオッサン」


未知の夫は書店の仕事を一生懸命やってくれる、めったに怒らない優しい人。けれど、母親の介護がはじまってから未知は「夫を甘やかしすぎた」と気づいてしまいました。それまでは、母親もやってくれていた家事を夫はほぼやってくれません。

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未知は三姉妹の長女で、女ばっかりの家族でした。夫への恋心と、「婿に来てくれる男性はありがたい」という意識が、夫を仕事以外何もできないオッサンにさせてしまったのです。
夫のことを「かわいい」と思った大学時代の思い出と、結婚までの馴れ初めが描かれるのですが、そのシーンでキュンとするほど、今の未知夫婦の姿は、昔読んでいた少女漫画のなれの果てを見てしまったような、なんともいえない気持ちになります⋯⋯。

家族に人はいても、介護を手伝うとは限らない


あれ、三姉妹なら他にも介護人員がいるのでは? と思いますが、そううまくいかない介護の実態も描いています。2番目の妹は嫁に行き、末の妹は同居していますが、まったく手伝ってくれないのです。

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母親の介護を手伝ってくれないのは長男・夫だけではなかったのです。家族がいても、それがたとえ女性であったとしても「家族の誰か一人が介護をしている」状況に陥ってしまう。これってとてもリアルな気がします。

50代の中にある女性の勇気を描く「ネオ少女漫画」


今の少女漫画では、ミドルエイジ世代が主人公の作品が増えているなと感じます。もうこれは新たなジャンルなのではないでしょうか?
作者の前作『ゆりあ先生の赤い糸』が「マンガ誌編集長が選ぶ、2020年のイチオシ作品」に選定された際、編集長のコメントにはこうありました。

”50歳ヒロインの物語ですが、私のなかではピュアな少女まんがそのものです。”
https://natalie.mu/comic/column/416418より引用

個人的には、女性の心ときめく瞬間を描くのが少女漫画なのだと思っているのですが、その観点でいくと本作もやっぱり少女漫画だな、と感じるのです。未知の心のときめきを感じてみてください!

 

『みっしょん!!』第1話を試し読み!
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<作品紹介>
『みっしょん!!』
入江 喜和 (著)

 下町の片隅。小さな書店を営み、静かに暮らす平凡な主婦・未知。エンドレスな家事と店番に追われ、心は枯れていく。そんなある日、出会ってしまった。未知の人生を急カーブさせる運命に⋯⋯!

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作者プロフィール:
入江 喜和
1989年に『杯気分!肴姫』が『モーニング』(講談社)へと掲載されデビュー。代表作に『のんちゃんのり弁』『昭和の男』『おかめ日和』『たそがれたかこ』など。2018年から2022年まで『BE・LOVE』(講談社)で連載された『ゆりあ先生の赤い糸』は菅野美穂主演でドラマ化された。


構成/大槻由実子
編集/坂口彩
 

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