日々さまざまなニュースが報じられていますが、時には猟奇的な事件に遭遇することがあります。こうした事件の中には、バラバラにした遺体が出てくるなど、残虐なものも少なくありません。なぜ犯人はこのような事件を起こしたのでしょうか? 犯人が逮捕されれば、やがて裁判で明らかになっていくかもしれませんが、未だに犯人がわからない未解決事件も多々あります。あなたの近所に、まだ警察に確保されていない犯人が潜んでいたとしても、おかしくはありません。月刊少年マガジン編集部が運営しているWeb漫画サイト「月マガ基地」で連載中の『DYS CASCADE』は、警察署の駐車場に置かれていた、12リットルの血液と片腕が入ったバケツから始まる、マーダー・ミステリー。暑い夏におすすめの作品です。

『DYS CASCADE』(1) (KCデラックス)


山の中で見つかった、女性の全裸遺体。


遠木県警本部捜査一課の巡査部長・三坂重遠(みさかしげとお)は、超ベテランの老刑事。優秀なのに未だ巡査部長なのは、昇進試験を受けずに現場にとどまってきたから。ある日も、1本の電話で呼び出され、殺人事件の現場に向かいます。

 

電話をかけてきたのは、同じく捜査一課の警部補・宇賀田怜悧(うかだれいり)。若いながらも出世頭で、今や捜査一課で自らの班を率い、三坂も宇賀田班に所属しています。とはいえ、実はこの日の殺人現場が初対面の場となります。というのも、県警本部捜査一課内で警部と巡査部長がW不倫をしたと週刊誌にすっぱ抜かれ、2人が退職してしまったために、他の署にいた宇賀田が地元に夫と娘を残して単身赴任で異動してきたばかりだったのです。

 

殺人現場はとある山の中腹で、山道で犬の散歩していた男性が、若い女性の全裸遺体を発見。外傷は内腿にある深い刺し傷で、両手首、両足首には拘束痕がありました。現場の周囲に血痕はなく、別の場所で殺害されてここまで運ばれてきたと推測されます。遺体は山道から少し奥まった場所で発見されたものの、容易に見つかるように置かれていました。

 

異動初日の宇賀田はテキパキと部下の刑事に聞き込みの指示を飛ばし、三坂と聞き込みに回ります。所轄の輿野署には捜査本部が立ち上がり、4日前から行方不明だった、23歳の古田美輪子が被害者であることが明らかになりました。古田は県内の大学を卒業して就職活動中で、一人で卒業旅行に行くと言い残してそのまま行方不明になっていたとのことでした。

 

古田には恋人はおらず、ストーカーの気配もなし。犯行に及んだのは身近な人なのか、それとも無関係の人間なのか。ベテラン三坂の見立ては、「殺し方がこなれ過ぎている印象を受ける」というもの。三坂と宇賀田は、過去に似たような殺害記録がないかどうかを当たることになりました。

 


警察署の駐車場に置かれた、血液と片腕の入ったバケツ。


署に戻った三坂は早速、過去の事件ファイルを洗い出し、内腿に傷がある若い女性の遺体が山中に遺棄された28年前の事件を見つけます。その時、三坂のスマートフォンが鳴ったため、電話に出ると、「駐車場に置いた」という見知らぬ男の声がして、すぐに切れてしまいます。着信履歴を見ると、知らない番号でした。いたずらかと思いつつ、警察署の駐車場に行くと、2台のパトカーの間に、フタつきのバケツを発見します。

 

中には、大量の血液と、切り落とされた片腕が入っており、深夜の警察署は騒然とします。バケツの容量は目測で20リットル。三坂は、このバケツになみなみと入った血液を見て、「12人分の致死量だ」とつぶやきます。

 

若い女性の猟奇的な殺人事件と、血液と片腕の入った謎のバケツから始まるこの物語。警察署の防犯カメラには、片腕のない男がバケツを持参する姿が写っていました。自分の腕を切り落として、ここまで持ってきたのでしょうか? 

宇賀田にはこの男に見覚えがあり、6年前にとある殺人事件の容疑者として聴取を行ったことがある馬場敦(ばばあつし)であることを思い出します。彼は犯人ではなかったものの、警察沙汰になったことで仕事をクビになり、彼の母曰く、その頃から息子はおかしくなり、警察への恨みをつのらせていったといいます。

警察は馬場の行方を追いますが、馬場は警察をあざ笑うかのように、再び県内のパーキングエリアの防犯カメラ前に現れます。馬場は車を放置したまま姿を消しており、車の中には12人の人物の名前が記された紙が置かれていました。


この社会には、猟奇的な未解決事件がたくさんある。


物語が進むにつれて深まる謎。警察を挑発するような馬場の行動の目的は何か? 被害者の古田はなぜあのような殺され方をしたのか? 紙に記された12人は誰なのか? 宇賀田と三坂が地道な捜査を続けていくことになります。その過程で、未解決なものを含む猟奇的な事件も次々と明るみに出ます。

また、片腕のない馬場や、被害者である古田、捜査を進める宇賀田や三坂などがどんな人物かも丁寧に描かれていきます。いろいろとお伝えしたいことはあるものの、何を話してもネタバレで楽しさが目減りしてしまいそうなため、これ以上のことはここでは書けません。とにかく読んで! 間違いなくハマるから! としか言えないのがもどかしい……。遺体の描写などがあるため、グロ系が本当にだめ、という人にはおすすめできないのですが、年齢の離れた宇賀田と三坂のバディとしてのやりとりは軽妙で時折笑える場面もあり、緩急のバランスもいい感じです。

作品名にもなっている「カスケード」とは、英語で「階段状の滝」という意味ですが、出血を抑える血液凝固システムのことも指すそうです。怪我をした時に、いくつもの血液凝固因子が固まってカサブタになるというわけです。

社会にとって、警察や裁判所、検察官は社会のカスケードとも言えるわけですが、この物語にも出ているように、この社会には未解決の事件は無数にあり、カスケードのシステムが機能せず、ダラダラと血を流し続ける状態でもあります。そんな中、宇賀田や三坂がカスケードとして、この謎多き事件に終止符を打つことはできるのか?

 

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『DYS CASCADE』
中川海二 講談社

警察署に置かれたバケツの中には12リットルの血液と1本の腕が入っていた。超ベテラン刑事と女性やり手・警察官のバディが片腕のない男を追い詰める。警察にケンカを売り続ける片腕の男。捜査を進めれば進めるほど謎は深まり過去に起きた事件も次々と関連を見せ始めた……。この事件、根が深い! 『ROUTE END』でサイコ・サスペンスの実力を示した中川海二、最新作。