その人の全てを永遠に知っている、という大きな誤解


ファンは、自分は果たしてあの人の役に立っているのか、この想いは報われるのかと常に潜在的な不安を抱えているので、アイドルやアスリートは絶えず皆様への感謝と愛を伝え続けて、数万から多い時には数億人ものファンを安心させ、満足させる必要があります。そこには確かに、応援される人の喜びと誠実な感謝が込められているでしょう。でも、消耗します。愛されるって消耗するんです。これは、過干渉の親や束縛の強い恋人に悩まされたことのある人は多少なりとも経験したことがあるのではないかと思います。

「僕はママじゃないよ。決めつけないで」大好きであるが故にやらかすファン、親、恋人のための心得【小島慶子】_img0
写真:Shutterstock

その人を大切に思うことと、その人を思うことの違いはなんでしょう。なぜ前者の方が尊そうなのに、後者の方が望ましいと私は考えるのか。後者には評価が入っていないからです。価値判断が伴わないから。
大切に思うこととただ思うことの違いは、「あなたを知っている」と「あなたを知りたい」の違いとも言えます。執拗な追っかけ行為などは一見「あなたを知りたい」がエスカレートしたように見えるけど、「自分はあなたを知っている」という大きな誤解をしているからこそ、相手との境界線を見失うんですよね。相手を知りたいと思うことと、所有したいと思うことは違います。自分はその人の全てを永遠に知ることはできない、思い通りにはできないと心得ることが、他者を尊ぶことなのでしょうね。

そう自分に言い聞かせながら、何度言ってもいつも母親からの着信に気づかない次男からのショートメッセージの返信を、今日も辛抱強く待とうと思います。

 

「僕はママじゃないよ。決めつけないで」大好きであるが故にやらかすファン、親、恋人のための心得【小島慶子】_img1
 


前回記事「子持ちじゃなくても男性でも「子育て脳」がある!最新の脳研究「親性」はヒトの生き残り戦略に必要なもの【小島慶子】」はこちら>>