東京女子と道産子男子の邂逅


東京に住んで、独身バリキャリと会社の後輩から揶揄半分で呼ばれる私が、9歳も年下の、北海道在住の男のひとと付き合うことになったのは予想もしないことだった。

ちょうど1年前のこと。行きつけのおばんざい屋さんで夕食を済ませ、そのまま店の片隅で仕事をしながら飲む、というのが私のルーティン。そこで出会ったのが洋司。キリンのように背が高く、話し方が優しい。普段は北海道に住んでいて、時々、東京に出張があるという。

私としては初めての経験だったが、出会ったその日に、関係を持った。

そこで終わってしまうと私でさえ思っていたけれど、付き合いは意外にも今日まで、遠距離にもかかわらず1年も続いているのだから相性がいいということ。このままいけば、私も「遠方に住む夫との家庭と、仕事の両立」を考えるべきときがきそう。

 

「見てみて、映美ちゃん! 踏み荒らされてないし、動物にも食い散らかされてない行者ニンニクだよ。この下の紫のはかまを取って、下洗いして冷凍すれば、しばらくもつよ」

洋司は無邪気に歓声を上げて、稲の苗を小さくしたような形の山菜を器用にとっては、袋に放り込んでいく。子どもらしいところがあるんだな、と微笑ましく思った。

私はと言えば、ほとんど凝った料理は作らないこともあり、山菜にさほどの興味が持てなかった。

 


「おひたしにしたりさ、てんぷらにしたり、炒め物も悪くないぜ。1週間くらいもつからね」

彼は器用に根本から刈り取って、私が手にしている袋にも入れてくれるが、正直言ってスーパーの袋が半分近くになった時点でもう興味を失っていた。1人暮らしでこんなに食べられるはずがない。

ところが彼の山菜への情熱はなかなかだった。そのまま2時間ほども、私たちは2人で山菜採りながら、森林の奥へと進んでいく。熊除け、と称して、ときどき彼が放尿するのは閉口した。ふざけているのかと思ったが、人間の匂いがすれば、臆病な熊は寄ってこないのだという。

洋司は張り切って山菜を採り続け、4袋目に突入していた。

私が疲れてきたので水筒を出そうと立ち止まったとき、30メートルくらい前方にある茂みの奥で小さな子がうめくような声がした。次の瞬間、がさっと音を立てて大きく揺れる。

「動くな! 熊だ!」