「愉快なおじさん」という意味では、こちらもApple TV+で配信され、今年大団円を迎えたドラマ『テッド・ラッソ:破天荒コーチがゆく』の主人公テッド・ラッソもまさにそんなキャラクターです。
ジェイソン・サダイキス演じるテッドは口ひげがトレードマークの明るい性格のアメフトコーチ。そんな彼がイギリスのフットボール・チームの監督に招かれ、サッカーのことを何も知らない素人ながら、問題だらけのチームを立て直していくという物語です。
テッドはバラバラのチームを導く父親のような存在になっていきますが、けっして上から何かを押しつけたり選手に過剰なプレッシャーを与えたりしません。ギャグを言ったりお菓子を焼いたりメンバーを励ましたりして、誰からも愛される存在になっていくのです。チームの女性オーナーであるレベッカ(ハンナ・ワディンガム)はある理由からはじめはテッドを陥れようとするのですが、彼のあまりのナイスガイぶりによって次第に彼と心を通わせていきます。ここでも中年男女の友情がキーになっているんですね。
いつもご機嫌で優しいテッドはいまの時代のおけるスーパーヒーローとして描かれていると僕は思うのですが、そんなテッドもひと知れず悩みを抱えていることがじょじょに明らかになっていきます。これは悩みや不安を抱えこみやすい男性のメンタルヘルスの問題を描いたもので、テッドのような一見元気そうな男性こそ弱みを周りに見せられないことを示唆しているのです。
やがてテッドは敬遠していたカウンセリングを受けることで自分が内側に抱えているものを解きほぐし、周囲に助けを求めるようになります。その後、中年男性同士のケアがほのぼのと描かれているのも、このドラマの現代的なところですね。
このドラマ、僕は「テッドみたいなひとと付き合いたい……」と思いながら観ていたのですが、もちろんテッドの優しさはひとりでは独占できないもの。というか、何かと殺伐としたこの世のなかです。彼のナイスガイぶりが世界中のおじさん……だけじゃなくて、たくさんのひとに少しずつ届けばいいなと思いました。
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