最後に、今年最高のおじさんカップルを紹介しようと思います。海外ドラマの個人ベスト5のほうでは『海賊になった貴族』のスティード・ボネットと黒ひげを取り上げましたが、ここではドラマ『THE LAST OF US』のあるエピソードに登場するふたりをピックアップします。
『THE LAST OF US』は大ヒットゲームをベースに作られたドラマ作品で、ある感染症が広がって壊滅的なダメージを受けた世界を舞台にした、いわゆるポストアポカリプスものです。物語はその世界に生き残った中年男性ジョエル(ペドロ・パスカル)と世界が滅んだあとに生まれた少女エリー(ベラ・ラムジー)を中心に進んでいきます。このペドロ・パスカルがまたセクシー……なのですが、その話はまた別の機会で。
ここで注目したいのは、エピソード3「長い間」に登場するビル(ニック・オファーマン)とフランク(マーレイ・バートレット)のふたりです。ビルはゲーム版にも登場するキャラクターで、彼が同性愛者であることは元からある設定なのですが、ドラマではそれを膨らませることによりゲイ・カップルのエモーショナルな物語が描かれるのです。
ビルは人間嫌いの偏屈な男で、誰とも関わらず武器を集めていたことで壊滅した世界でひとり生き残っています。あるとき侵入者を捕らえる罠にかかったフランクという男に出会い、しぶしぶ彼を家に招いたビルは偶然同じ歌(リンダ・ロンシュタットの名曲「ロング・ロング・タイム」)が好きだったことから惹かれ合い、愛し合うようになります。ふたりはその後20年近くともに暮らし、文字通り「病めるときも健やかなるときも」人生を分かち合います。滅亡した世界という架空の設定ながら、同性カップルの長年のパートナーシップを美しく描いたこのエピソードは世界中の視聴者を感動させました。
他人を寄せつけず殻に閉じこもっていたビルは対照的に明るいフランクと出会うことで、自分の生きる意味を見出していきます。愛は頑固なおじさんも変えてしまう……そんなシンプルな希望に満ちた物語なのです。ドラマはかなりヘヴィな内容なのですが、ぜひ多くの方に観ていただきたいエピソードです。
こうして振り返ってみれば、僕は今年もおじさんがふと見せる心の柔らかい部分にときめいていたようです。2024年も素敵なおじさんとたくさん出会いますように。
取材・文/木津毅
構成/山崎 恵
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