時代の潮目を迎えた今、自分ごととして考えたい社会問題について小島慶子さんが取り上げます。

年末年始は宴会の機会も増えますね。ところで、酒呑童子をご存知でしょうか。平安時代に京都の大江山に住んでいた酒飲みの鬼です。人をさらっては悪さをしていたのですが、山伏に変装して潜入した武士の源頼光らに毒酒を飲まされて、退治されました。で、このところ私「酒呑童子をやっつけずに、鬼との飲み会の乗り切り方ばかり語ってどうするんじゃ!」という案件に連続して遭遇しておりましてね。ちょっと腹に据えかねているんです。まあ、ノンアルビールでも一杯やりながら聞いてください。

 


ここは日の本。令和の世では、組織の女性幹部を増やさないといけないのに、なかなか増えません。それはなぜでしょう。従来の幹部モデルが、家庭は妻任せで仕事一筋の男性を基準にしているからです。女性医師が増えないのはなぜでしょう。既存の医師モデルが、24時間戦うマインドの仕事一筋の男性を基準にしているからです。どうせ女は医者の仕事に適応できないからと、長い間、医大の入試では女性の点数を操作して合格しにくくしていたほどです。最近では警察官の不祥事発覚が続き、なり手が減っているそうです。これも同様、組織の体質改善が問われています。

ハラスメントと長時間労働を強いる上司は、まさに鬼。今時そんな組織で働きたい人はいません。しかしそこにばっちり適応して出世した人たちが、組織の中枢にゾロゾロいます。いわば酒呑童子の家来たちです(茨木童子とかね)。まあみんな鬼社会で難なくやっていける人たちです。彼らにとっては素晴らしき鬼の世界なのですが、そこに連れて来られる人の身にもなって下さい。地獄ですよ。伝説では、酒呑童子らはさらってきた人の生き血を飲んで肉を食らっていたそうです。酷い組織に連れて来られた人はハラスメントやら長時間労働やらで、人間扱いされずに潰されてしまう。

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そんな酒呑童子に世間が困り果てているので、よっしゃ鬼退治じゃと源頼光と家来たちが山に乗り込んだわけです。山伏に変装して根城を訪ね「怪しい者ではないので泊めてくれないか、っていうか酒も持ってるし、一杯やろうや」と上手いこと言って潜入。酒好きの酒呑童子はうっかり気を許してしみじみ身の上話など語り、頼光らに毒酒を飲まされて首を刎ねられました。

伝説では、頼光たちは酒呑童子らと一緒になって、拐われた姫君の肉を喰らい、血の酒を飲み、鬼をすっかり油断させて毒酒を飲ませたそうな。凄惨な喩えだけど、これを仕事に置き換えれば、昭和型の滅私奉公で働き通し、ゴルフに麻雀キャバクラ風俗、飲めば2次会3次会、上司に言われれば地の果てまでもと、男社会の付き合いにどっぷり浸かって可愛がられて引き上げられて、権力を手にしたところで手のひら返しで取締役会で結託してトップを追放、組織改革を成し遂げたということでしょうか。