平穏な日常に潜んでいる、ちょっとだけ「怖い話」。
そっと耳を傾けてみましょう……。

 


第52話 ホームステイ【前編】

「到着日を間違えた...今夜は野宿!?」緊張しながら異国の一軒家を訪れた彼女。出迎えたのはまさかの..._img0
 

「困ったなあ……携帯、出ないかあ」

しとしと小雨が降るロンドン・ヒースロー空港のバスターミナルで、私は途方に暮れてため息をひとつ、ついた。

大きなスーツケースを押して端に寄ると、スリを警戒してスマホを素早くバッグに戻してから、思案する。

今日から、イギリスの郊外で4週間のホームステイ。私は東京の仕事を辞め、1年間の予定で語学留学にやってきた。30歳の節目に、新しい挑戦。憧れはあったけれど、イギリスに来るのは初めてだったから、わからないことだらけだ。

8年働いて貯めたお金300万円は大事な軍資金で、基本的にこのお金で学費と生活費を賄わなくてはならない。最初だけホームステイにして、ルームメイトを学校の掲示板で探し、とにかく家賃が安いところに収まろうと考えていた。

大学生の頃に行った2週間の短期留学の経験から、私はいくつかの「節約方法」を思いついた。代理店や留学斡旋業者を通さず、コツコツインターネットで直接学校にアプローチし、ステイ先も現地英語サイトから申し込む。こうすることで費用がびっくりするくらい安くなった。

英語でのやり取りは多少苦労したが、なんとか4週間お世話になることが決まったのはリタイアしたばかりの60歳のご夫婦の家。事前に1度メールでご挨拶を済ませている。

万事が順調……と思いきや、私は飛行機の中で大変なミスに気がついた。

ホームステイ先の受け入れ決定通知書をイミグレーションで出そうと広げたところ、なんと到着日を1日間違えている。これじゃあ先方は、私が明日到着すると思っているはずだ。

顔面蒼白、飛行機を降りてすぐにホストファザーの携帯に電話をしてみたけれど、何回かけても応答がない。

――これは……ダメ元でとりあえず一度行ってみて、1日早く入れるか相談してみるしかなさそう。ダメなら近くのB&Bとかホテルを教えてもらおう。

私はまだ15時なのに暗くなり始めた冬のイギリスの空を眺めながら、緊張気味に空港バスに乗り込んだ。