政府が”異次元の少子化対策”の一環として掲げているのが「保育の質の向上」。しかし、以前から目下の課題になっている保育士不足はなかなか解決しないまま。保育士さんの成り手が少ない理由は賃金の低さだと言われていますが、本当にそれだけでしょうか?
6月18日に発売された『問題のある保育園』には、そのヒントが描かれています。
小さい頃から年下の子のお世話をするのが好きで、小学生の頃には保育士さんになりたいと思ってきた新卒保育士・さいお先生。大学三年の時、保育実習で配属された保育園で、想像と違っていた園のマナーと人間関係にちょっと戸惑います。
家では日誌の下書きと清書に追われ、実習生は先生全員に挨拶をしないといけないという上下関係の厳しさ。そして、実習中に見てしまった先輩保育士さんの驚くべき言動。
え? これってアリなの? クラス担任からは常に品定めをするように見られ、ちょっとのミスも見逃されない。実習生だからしかたないのかもしれませんが、保育園の「闇」を感じてしまったさいお先生は、別の園で就職します。
その園でさいお先生が出会ったのは、2年目の保育士の先輩・「歪んだ愛の先生」ことユガミ先生。彼女が登場する2章「新卒保育士VS歪んだ愛の先生」は、Twitterで公開されて大バズり。なぜならそのキャラが恐ろしすぎたから⋯⋯。
さいお先生は、ユガミ先生が一人の子をいつも「上げて落とす」のに気づきます。
疑惑を抱いて彼女の言動を見ていると、2歳児相手にわざと意地悪なことを言って「愛を試している」ことが明確に。それも甘えん坊で先生になついているような子にだけやるのです。おかしいと思いつつ、経験が少ないためうまく指摘できないさいお先生は、思い切って園長先生に話してみたところ、そこからユガミ先生との静かなバトルが始まり、彼女がもっと問題な行動を起こしていたことがわかります。
保育園の「問題」をざくっと切り取ってくる本作は、シンプルなキャラ化された先生たちの絵を見て、軽い気持ちで読み始めるとやられちゃいます。
キャラの外見情報が少ないからこそ浮かび上がる、保育園とユガミ先生のヤバさ。
それに彼女たちがリアルな絵だったらしんどみが増すので、この画風が最適解なんです。
でも、本当にヤバいのは保育園や先生なのでしょうか?
さいお先生たちの仕事を見ていると「ねえ、この仕事って本当に必要かな⋯⋯!?」と言いたくなるものが多いのです。実習時の日誌の下書きと清書とか、保育園でのイベントの準備とか、純粋な保育以外の業務で省ける工程がたくさんある!!
めちゃくちゃ非効率なんですよね。
不要な作業は削減して、先生たちには保育に集中できる環境をつくってほしいんですけれども。これじゃユガミ先生のように病んでしまう人もいるよね、とすら感じます。
保育士不足の要因には、この業務負担の多さもある気がします。学校の先生と同じですね。
タイトルの『問題のある保育園』の”問題”とは、賃金と業務負担。それらが保育士の方々の心と能力を歪ませて、子どもたちへの対応が雑になったり、わざと意地悪をしてみたくなったりさせてしまうんじゃないのかな、と悲しい気持ちになります。
歪みが行きつくところは、子どもへの虐待。それは子どもと保育士、双方にとってとても不幸な結末になります。
さいお先生が2年目になるまで物語は続くのですが、やっぱり最後まで気にかかるユガミ先生。その彼女の新卒時代が、スピンオフで入っているのですが、「ああ⋯⋯そうだったのか!」と叫んで突っ伏してしまう内容なんです。彼女は何を思っていたのでしょうか。
『問題のある保育園』序章と2章を試し読み!
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<作品紹介>
『問題のある保育園』
さいおなお (著)
昔から夢だった保育士になったのに、なんだかお疲れ気味の新卒保育士・さいお先生。
最近の悩みは、同じクラスを受け持つユガミ先生。お気に入りの園児・Aちゃんをいじめてわざと泣かせて楽しんでいるのだ。園長先生に相談しても、事態は改善せず⋯⋯。
Twitterでバズり、議論を呼んだ「新卒保育士VS歪んだ愛の先生」にユガミ先生のスピンオフなど計74ページを描き下ろして書籍化!
保育士たちの笑顔の裏側と、さいお先生の成長を描いた実録コミックエッセイ、ここに誕生です!
作者プロフィール
構成/大槻由実子
編集/坂口彩
さいおなお
保育園で3年勤務後、独立してベビーシッターとして活動する漫画家。
Twitterアカウント:@saionao_