「なんか感じる」という霊感がある人って、結構多いんじゃないでしょうか。普段はあえて人には言わないけれど、相手の考えていることや少し先の未来がわかっちゃう時がありませんか。子どもや家族の気持ちがわかってしまうというのも、もしかしたら霊感の一種なのかもしれない⋯⋯なんて。
霊視で事件の犯人がわかるけれど、証明できない霊媒。すごい能力を持っているのに世間から認められない彼女を論理で支える推理作家。二人の絶妙なバランスが独特なミステリー『medium 霊媒探偵城塚翡翠』のコミックス2巻が9月22日に発売になりました。

霊媒の力で死者の魂を呼び寄せ、自分の体に乗り移らせて言葉を伝えることができる美女・城塚翡翠(じょうづか・ひすい)。

 

彼女はミステリアスな霊媒として様々な事件の真実が「視えて」いましたが、証拠能力がありませんでした。ある事件をきっかけに彼女と出逢った、推理作家・香月史郎(こうげつ・しろう)は、彼女の霊媒能力を認め、論理を組み立てて、証拠を示し、次々と謎の殺人事件を解決していくのです。

 

霊の存在が視えたり死者の魂を呼んで事件の犯人がわかっても、他人にそれを証明できない霊媒の翡翠。
彼女を論理でサポートし、真犯人であることを証明する香月。

二人は名推理コンビというより、香月が翡翠に心を動かされて協力する、というバランスなのがミステリーものではちょっと変わっている設定。

そして、翡翠はどんな霊でも呼び寄せることができるわけではなく、条件があるというのもユニークです。

 

彼女自身と年齢が離れていたり、死亡場所が離れていたり、死亡した時点から時間が経ちすぎていると降霊できないのだそう。対象範囲がけっこう限定された能力のようですね⋯⋯。

一方で、彼女が感知するのは視覚だけではない様子。生きている人の魂については、直接対面した時の「匂い」で、その人の感情や生き方の方向性が感じ取れるそうです。でも嗅覚とはちょっと違っていて、第六感のようなものだと彼女は言っています。

なんだか不思議な能力ですよね?

 

すごい能力を持っているのに彼女は自信がない


犯人がすぐにわかってしまう。これだけなら素晴らしい名探偵! なはずなのに、その理由では全然説得できずにただ「霊が視えたから」という曖昧なものだと一気にあやしくなってしまうよね、というのがヒロイン・翡翠の最大のポイント。
霊媒をしている時の彼女はミステリアスで、「霊がついている」と言われたら思わず納得してしまうオーラを放ってます。でも、謎めいたイメージは作り上げられたもので、素顔の彼女は浮世離れしたお嬢様。自信がない様子がちらほら感じられます。

 

きっとこれまで苦しかったのだろうなと、香月は、特殊な能力を持って生まれてきた彼女がどんな人生を歩んできたのか気になりはじめるのでした。
 

スピな感覚を論理で補強したら、現実を生きていける


霊が視えるなど、霊感が強い人というのはあっちの世界に引っ張られてしまっていて、グラウンディングが弱い=「今、ここにいる」感覚が薄い人が多いのだそう。彼女が世間離れしてふわふわしているというのも納得です。神秘的なイメージを作り上げていたら余計にそうなっちゃいますよね。

 

でも香月と出会ったことで、彼女は「今、ここ」の現実を生きる感覚が強まり、自信が出てくるのではないのかなと思います。

自分の能力をどう世間にわかってもらえるか。
霊媒体質でなくても、何らかの突出した能力のある人にとっては、香月の「論理で説明をする」というアプローチはヒントになりそうです。

⋯⋯と、ここで終わってもいいのですが、単に本作は二人の推理劇では終わらないのですよね。原作をご存知の方なら知っているのですが、思わず声が出てしまうような「仕掛け」がこのコミカライズ版でも当然出てくるはず。それが味わえるのは10月22日発売の3巻なので、ぜひ最後まで読んでみてほしいです。きっとまた第一話から読み返したくなるはずですから⋯⋯!

 

『medium 霊媒探偵城塚翡翠』第1話を試し読み!
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<作品紹介>
『medium 霊媒探偵城塚翡翠』
相沢沙呼(原作) 清原紘(漫画)

犯人はわかっている。でも、霊視は証拠にならない。どうする!?
霊媒・城塚翡翠が霊視で犯人を当て、ミステリ作家・香月史郎が論理で「霊視以外の証拠」を示す。数々の難事件に挑む二人だが、世間を震撼させている連続死体遺棄事件の犯人の魔手が、翡翠の元へと迫っていた!!ミステリランキングの5冠を達成した原作を漫画化!麗しい探偵・城塚翡翠の推理劇が開幕する!

作者プロフィール 

相沢沙呼(原作):

1983年埼玉県生まれ。2009年『午前零時のサンドリヨン』で第19回鮎川哲也賞を受賞しデビュー。繊細な筆致で、登場人物たちの心情を描き、ミステリ、青春小説、ライトノベルなど、ジャンルをまたいだ活躍を見せている。本作の続編となる『invert 城塚翡翠倒叙集』『invert II 覗き窓の死角』(ともに講談社)も発売中。

清原紘(漫画):
漫画家、イラストレーター。漫画作品に『きみにしか聞こえない』『コインランドリーの女』『Another』『探偵の探偵』『十角館の殺人』などがある。イラストレーターとして、『緋色の囁き〈新装改訂版〉』など多数の書籍の装画を担当し、『蒼き革命のヴァルキュリア』などのゲームのキャラクターデザインも手掛ける。


構成/大槻由実子
編集/坂口彩