恋人の長谷川(若葉竜也)からプロポーズされた翌日に、ふたりが同居していた家から荷物も持たずに逃げ出し、行方がわからなくなった市子(杉咲花)。長谷川の元を訪ねて来た刑事・後藤(宇野祥平)によると、「川辺市子」という人間は存在しないのだと言います。市子は誰なのか、どんな人生を歩んできたのか。長谷川が市子を知る人々を尋ね歩く中で、市子が歩んできた不可解な人生が浮かび上がっていきます。

©2023映画「市子」製作委員会

市子の家には、難病である筋ジストロフィーで寝たきりの妹・月子がいました。市子は母・なつみ(中村ゆり)がスナックに働きに行った後、エアコンも効かない蒸し暑い部屋で、月子の介護をしています。ベッドに横になる妹を見下ろす市子は、アラームが鳴り響く中、呼吸器を外したまま放置するのです。仕事から帰ってきたなつみは、息をしていない月子を見て、市子に「ありがとう」と呟くのでした。


市子は、月子の名前を借り、学校に通っていたのでした。しかし、なぜ、妹の名を使う必要があったのか。それは、市子が「離婚後300日問題」により、無戸籍だったからです。

 
「離婚後300日問題」とは?
母が、元夫との離婚後300日以内に子を出産した場合には、その子は民法上元夫の子と推定されるため、子の血縁上の父と元夫とが異なるときであっても、原則として、元夫を父とする出生の届出以外受理されず、戸籍上も元夫の子として扱われることになるという問題、あるいは、このような戸籍上の扱いを避けるために、母が子の出生の届出をしないことによって、子が戸籍に記載されず無戸籍になっているという問題のことです。
法務省HPより引用)