【4】オタクである
とはいえ、ギャップというのは、俺様男子に限らず、人の魅力の源泉となるもの。「ツンデレ」というわかりやすい武器を使わずに、どうやって大河先生の魅力を打ち出すか。そこで用いられた要素が、オタクでした。
病院では天才外科医。でも家の中は、新しい学校のリーダーズや好きなアニメなどのグッズがぎっしり。このゴリゴリのオタク気質こそが、俺様感を薄めるいい中和剤となっているのです。
推し活なるワードが浸透して幾星霜。いよいよオタクであることがキュンポイントになる時代がやってきました。演じる高杉真宙さんも漫画とゲームが大好きなオタク。他にも吉沢亮さんや佐久間大介さんなどオタクを公言している人は多いですし、それが欠点になるどころか、むしろ親しみの湧くポイントになっている感すらあります。
これからの時代は、「俺様」×「オタク」がニュースタンダードなのかもしれません。
【5】俺様であることにキュンとさせない
そしていちばん大切なポイントは、大河先生の俺様要素に対し、ヒロインの澪が特にキュンとしていないところです。そもそも今のところ澪と大河先生の間に恋愛感情はなさそうな雰囲気。最初こそ憧れの大河先生が隣の部屋に住んでいることに興奮していましたが、あれは医療オタクである澪が推しとの予期せぬ接触にバグったようなもの。突然のファンサが心臓に悪いのは、ドルオタも医療オタも同じです。
その後も、大河先生に対する澪の扱いは、キュンどころかむしろ雑。いわゆる恋愛っぽいシチュエーションに直面したときは「ベタなラブコメ展開」とメタ的にツッコミを入れることで、キュンが働かないように予防線を張っている印象すらあります。
俺様男子自体を否定するわけではない。だけど、それを恋愛対象としての魅力因子にはしない。この絶妙なバランス感覚が、思わず「ウッ……!」とならないシン・俺様男子の最大の要因なのでした。
ドラマは、時代を映す鏡。そこに登場する男性像は、今の時代が男性に求める理想の集合体です。人を「ブス」とも「バカ」とも言わないし、飴と鞭で手なづけようともしない。無断でキスやハグもしない。その上で、仕事は有能、困ったときは頼りになる。そんな男性を今私たちは欲しているのかもしれません。
文/横川良明
構成/山崎 恵
Comment