「昭和の人権軽視の風潮」は現代にも息づいている
小川市郎は、部活中の生徒に水は飲むなと言ったり、すぐに「ケツバットだからな」と言ったりします。筆者は以前勤めていた会社の上司が、令和なのに、ミスするとすぐに「ケツバットだからな」とか言うタイプで、その記憶が蘇ってまた震えました。もうトラウマです。ドラマで描かれる昭和を見ながら、「まじで昭和に生まれなくてよかった、昭和だったら生きていられなかったかも」と思ってしまいました。
小川市郎は38年前からやってきた設定ですが、SNSでは「地方ならこういう人ごろごろいる」という声も聞かれます。筆者も、なんなら東京でも「会社の上司で普通にいるしな……」と思ったりします。ドラマで描かれる昭和のセクハラやパワハラ、体罰といった人権軽視の風潮って、現代にも息づいている。だから、とてもじゃないけどこんな滅茶苦茶な時代もあったんだ~と手放しで笑えないし、何でも許されて自由だったみたいな反応は、無邪気にもほどがあると思うんです。
また、それ以外にも意見が分かれている大きなポイントが。「行きすぎたコンプラでガチガチの令和に物申す系のスカッとドラマ」だと思っている人たちがたくさんいる一方、「昭和礼賛、令和ディスなんて安直な二項対立の話ではなく、昭和と令和どちらにも課題があることをあぶりだすドラマだ」という見方もあるということ。これについては後でまた触れます。
令和は全部が全部「過度に気を遣う社会」なのか?
回が進んでいくにつれてドラマ全体の真意は明らかになっていくでしょうが、1話から正直引っかかること山のごとし。まず、令和の描き方がとても恣意的なんです。例えばこんなシーンがありました。小川市郎は、タイムスリップした令和で、秋津くん(磯村隼人)が会社での振る舞いを部下の加賀ちゃん(木下晴香)からハラスメントだと申告され、人事部の聞き取りの前に、上司から「ハラスメントに心当たりはないか」を確認される場面に遭遇します。秋津くんがハラスメントだと言われたのは、次のようなことです。
・「いよいよだね加賀ちゃん。期待してるから頑張ってね」と言ったこと。
→上司の指摘:期待して心が折れちゃう人もいる!
・「さすがZ世代」と言ったこと。
→上司の指摘:世代で括るのはエイジハラスメント!
・バーベキューで野菜を取り分けた加賀ちゃんに「加賀ちゃんをお嫁さんにする男は幸せだねえ」と言ったこと。
→上司の指摘:動かない他の女子社員がまるで気が利かないみたいな空気になり、気まずかった!
こんな感じで、「令和はコンプラが厳しくなり、何でもハラスメントと言われるようになった」と印象付ける意図があるともとれるシーンだったのですが、例がいくらなんでも悪い方に極端すぎる。もちろん、ドラマなので全体的にデフォルメ、カリカチュアライズされているのでしょうし、なんでもハラスメントと決めつけ、頭が固まっている人を風刺したのかもしれません。それでもかなり、悪意のある描き方だと思いました。
コンプラやハラスメントへの意識の高まりの弊害や功罪を指摘したいなら、例えば部下を叱ることができなくなったがゆえに教えることすら放棄するようになった上司、とか、他にいくらでも例があると思います。今の世の中は、本当に何でもハラスメントと言われ、過度に気を遣う社会なのでしょうか?
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