「窓からも天井からも、太陽の光が射してくるなんて素敵ね」

写真:Shutterstock

沼畑のおじさんとママが「住むところが借りられないか」村じゅうの家を訪ねて聞いてまわったところ、あるリンゴ農家の作業小屋を借りられることに。リンゴ泥棒を見張ったりするためのその小屋は八畳ほどの広さはあったものの、北千束の“赤い屋根のモダンなおうち”とは大違いで、「屋根は藁葺き、板張りの壁は隙間だらけで、明かりは石油ランプしかない」状態だったそうです。

ですが、前回記事でも紹介したように、トットちゃんにとってママは、日常にわくわくをくれる「魔法使い」のような人。「窓からも天井からも、太陽の光が射してくるなんて素敵ね」と言い、張り切ってリンゴ小屋のリフォームにとりかかった様子が綴られています。

 

リンゴ箱を逆さにしたかと思うと、その上に綿や藁を敷きつめ、荷物をまとめるふろしき代わりに使ったゴブラン織りの布をかぶせ、上から釘を打った。箱のまわりに余り布をフリルみたいにして垂らすと、ロココ調のおしゃれな椅子のできあがり。

近所の人から分けてもらったシーツは、絵の具でうすいグリーンに塗った。そこにリンゴの絵をたくさん描いて壁に飾ると、立派なタペストリーになった。一メートルぐらい高くなっている床は、子ども用のベッドに変身した。殺風景だったリンゴ小屋が、北千束の家みたいな雰囲気に生まれ変わった。
 


飢えや寒さを耐え忍ぶだけではなく、少しでも明るく暮らすための工夫を忘れなかったママ。その姿は、疎開への戸惑い、知らない土地で暮らす不安を抱えた幼い子どもたちにとって、どれほど頼もしく映ったことでしょう。