それぞれの立場から細分化するフェミニズム


中野 女性の中にも強者の論理を振りかざしているように見える人たちがいる、という話がでましたが、でも山口さんが言ったように彼女たちにも弱さがあって、それをボコボコに叩くのもどうかと思うことも多いです。最近、リーン・イン・フェミニズム(※1)とかがすごく批判されているじゃないですか。

※1 リーン・イン・フェミニズム:Facebookの元COO、シェリル・サンドバーグの著書『LEAN IN』に対し、資本主義や企業の利益につながる女性だけのフェミニズムであると指摘する際の言い方

山口 リーン・インは私も嫌いだけどね。システムを根本から改善しようという意欲が低く、企業に受け入れられるにはここを変えればいいというような考え方は、逆に企業や経営層に利用されやすいし、それだけで終わらされてしまうという問題点もある。

 

中野 それは分かります。

でもね、私たちのような、アカデミアに片足突っ込んではいても雇用面で不安定な立場からすると、リーン・イン批判もまた、競争を勝ち抜いた結果手にしたテニュア(アカデミアにおける終身雇用)という、すごく安全な場所から行われているよな、と思うこともあるんですよね。

今、男性が多い企業とかで、必死な思いで頑張ってる人たちは、そうは言っても社会はすぐには変えられない中で、その組織に適応できなかったらどうやって生きていけばいいのかわからないという人もいるだろうし、組織をいい方向に変えたいという人もいるかもしれない。それを「資本主義や男社会に加担している」と責めて、女同士で対立しても仕方ないのではとも思う。

山口 強く見える女の人って、異常に嫌われるところもあるよね。特にテレビは、出た瞬間に好きとか嫌いとかを直感的に判断されている。だから私も、コメンテーターなどで出演する際には、自分の弱いところを意識的に、必要以上に自虐的に出していたことがあります。そうじゃないと叩かれるかもしれないという自衛本能があったんだと思う。最近は、自分が心地よいと思わない範囲までは言わないようにしているけど。

アメリカではブラック・フェミニズムが、従来のフェミニズムに対し、こんなのは白人の余裕のある人たちの暇つぶしで、日々の生活で必死な人たちは女性だからどうということを言っていられないと批判して、それで第四派フェミニズムはすごく細分化しています。ただ、もう少しMeTooのときみたいにゆるく、全体的には言いたいことは同じ、というふうになれたらいいのにね。


中野 本当にそう思うけれど、一方で、見落とされがちなインターセクショナリティ(※2)という観点も大事だと思います。問題の真っただ中にいると、声を上げたり問題を整理したりすることも難しい。だからこそ、研究者やジャーナリストとして当事者の声を聞き取ることができたらと思うけど、色々な当事者性があり、その課題を勝手にひとくくりにしてはいけないことは、常に意識していないといけないと感じています。

※2 インターセクショナリティ(交差性):人種、階級、ジェンダー、セクシュアリティ、国籍、世代、アビリティなどのカテゴリーがそれぞれ別個にではなく、相互に関係し、人びとの経験を形づくっていることを示す概念。

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<第3回に続く>

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<書籍紹介>
『挫折からのキャリア論』

山口真由・著 日経BP・刊 1870円(税込)

東大を全優で卒業し、財務省に入省。その後、米ハーバード・ロースクールを卒業してNY州弁護士登録ーー。どこから観ても完璧に見えるキャリア、しかしその裏には、山ほどの失敗と人知れぬ悩みが。時間がかかった「自分探し」の末に見つけた「キャリアの軸」とは? 悔しい挫折や失敗を乗り越えて、前に進むエネルギーに変える「飴玉メソッド」も紹介。


撮影/塚田亮平
文/中野円佳
構成/山崎 恵
 

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