「自分の注文が遅いだけで、“私がアジア人だから?”と思ってた」米留学時代。マジョリティとマイノリティを行き来して思うこと【山口真由×中野円佳】_img0
 

山口真由さん・中野円佳さんの対談企画。最終回は、「女性同士の対立」についてより深く考えていきます。学歴、職業、年齢、未婚か既婚か、子持ちか子なしか。あらゆる属性によって隔てられ、そのたびにマジョリティとマイノリティとが入れ替わる私たち。そうした立場の違いを越え、互いが手を差し伸べられるようになるには、何が必要なのでしょうか。

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「楽しい」と「しんどい」、その両方を伝える難しさ


ーー今回の対談は「高学歴・ハイキャリアの女性への(女性を含めた)社会からの偏見」がテーマの一つになっていますが、他にも経済格差やルッキズムなど、現在の日本ではありとあらゆるものが女性同士の対立を生んでいる気がします。

山口真由さん(以下、山口) 女性同士の分かり合えなさは、子育てについても言えて。普段から「子どもっていいわよ、子どもの寝顔みたら疲れが吹っ飛ぶのよ~」なんて言ってる人から、急に「今日は子どもの体調が悪いので先に帰ります!」とか言われたら、まあ独身からすれば「ふーん……」ってなりますよね。

でも子育ても、そんなにキラキラな側面ばっかり強調しないで、生まれた後も大変だということとか、助けてほしいということを、周囲にもっと言えばいいんじゃないかなって。


中野円佳さん(以下、中野) 子どもが小学生になって一番大変な時期は抜けたかなと思ったら、小学生になったらなったで、不登校などまた違う悩みが出てきたり、中学生の親からは「また別の問題が出てくる」とか聞いたりして、子どもの年齢が上がれば、その度にまた別の壁が出てくる側面もあります。

私はこれまで、子育てや両立が大変ということを言ってきたほうだけど、でもあまり大変なところばかり見せるのも、若い人たちに「両立って大変そう。子どもほしくない」と思わせてしまうかな、と考えることもある。

でもメディアに露出している人などが、あれもこれも完璧にしているところだけ見せすぎても、その人と同世代だったり同じフェーズにいる人からしたら「自分は全然できていない」となってしまいますよね。

『母親になって後悔してる』(オルナ・ドーナト著、2017年)という本がありますが、例えばそういう感情があってもいいと思えることとか、一見、完璧に見えるような方も実は紆余曲折を経ていて、それを見ることで勇気づけられたりする面はあると思う。その問題の渦中にいるときは難しいかもしれないけど、後からでもいいから、いろいろな在り方を発信するのは本当に意義がありますよね。

山口 私の周りには、子どもを産んだ後、自責の念から仕事を辞めていく人も多いです。弁護士同士で結婚して世帯収入はあるから、辞めようと思えば辞められるんだよね。それで、出産前に比べてちゃんと働けていないというようなことで自分を責めて専業主婦になる。これまでの制度を変えようなんておこがましいと、辞めていく。

私はそういう自責の念は持つべきじゃないと思うんだけど、どう思う? そうやって辞めていくよりは、これは変えられるんじゃないのと言ってみるほうがいいと思うんだけど。

中野 仕事と子育ての両立がうまくいかない時に自責の念にかられてしまうのはわかるけど、やっぱりそれも自己責任論的かなと思う。『なぜ共働きも専業もしんどいのか』という本に書いているんですが、子育ての在り方も専業主婦が前提になっている社会に対して、それに適応し強化するのではなく、異議を唱えることをしてほしいですかね……。「子育て中でない人にとっても、この働き方はおかしくない?」と。

ただやっぱりその時に、自分が優遇されないのはおかしい、というやり方ではなくて、全体をいい方向にするにはどうすればいいか、という風に考えてほしいのですが。