男性の恋愛感情を利用して詐欺を働き、約1億5000万円を騙し取ったとされる自称「頂き女子りりちゃん」こと渡邊真衣被告(25)。3月15日の初公判で検察は、懲役13年、罰金1200万円を求刑しました。これに対し、XをはじめとするSNSでは「男性の性犯罪に対して女性が男性を騙したときの罰が重すぎる」という論調があります。

例えばつい最近判決が出た事件でいうと、2022〜23年にかけてフルーツ狩りを口実に女児3人を自宅敷地内に誘い込み、わいせつ行為をした76歳の男性は懲役2年の実刑。もちろんりりちゃんが犯した罪とは性質が違いますし、比べられない部分もあるのは承知の上で。自分で判断する能力があり、おそらく下心もあった成人男性を騙すのと、子どもを騙して、恐らく生涯消えないであろう恐怖と屈辱感をも植え付ける性犯罪と。後者の方が、日本ではあまりにも罰が軽すぎる印象は否めません。

この判決を聞いて私が思い出したのが、Netflixの『Tinder詐欺師: 恋愛は大金を生む』というドキュメンタリー映画。マッチングアプリの「Tinder」を使って女性たちからおよそ1000万ドルを巻き上げた、サイモン・レヴィエフと名乗るこの男性。自身をイスラエルのダイヤモンド王でオリガルヒのレフ・レヴィエフの息子だと名乗って結婚に憧れるアラフォー女性たちを次々に騙していくのですが、その手口がすごいのです。

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Netflix『Tinder詐欺師: 恋愛は大金を生む』 Courtesy of Netflix

最初のデートでいきなりプライベートジェットでロンドンからブルガリアに飛び、豪華なレストランでディナー。しかもフライトには専属ガードマンのほかに、彼の子どもを連れた元パートナーという女性が同行して「彼は素晴らしい実業家」と吹聴させる。平凡な毎日に突然訪れた映画のようなロマンスに、女性たちは「やっぱり私って特別な女性なのかも」と自尊心をくすぐられてしまうのか、彼の嘘にコロッと騙されてしまいます。

インスタを見ればファンシーなホテルやレストラン、高級時計やスーパーカーの写真がずらり。インスタでDMを送ってくる、国際ロマンス詐欺と同じ手口。明らかに胡散臭い。だけどこちらの方が手が込んでいて、お金がかかっているのですね。

最初はゴージャスで夢のようなデートを演出して、その内「一緒に暮らしたい」と持ちかける。世界を飛び回っている(と見せかけている)彼は忙しいから、部屋の内見に立ち会えない。豪邸を女性に内見させて、いざ契約、となった頃合いで、ビジネスでトラブルがあったので当座のお金を融通して欲しいと頼み込む。彼と結婚したいと望む女性たちは、ついには借金してまでお金を送り続けるけれど、いつまで経ってもお金は返ってこない、という寸法。

 

 

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Netflix『Tinder詐欺師: 恋愛は大金を生む』 Courtesy of Netflix

しかし、どれだけ手の込んだ嘘もいつかはバレるもの。日本でも、広告代理店勤務の40代既婚男性が複数の婚活アプリで独身女性を騙し、被害者女性たちが連帯して集団訴訟を起こしたニュースがありましたが、このレヴィエフの被害者たちも、勇気を持って被害を告白したことで彼を追い詰めていきます。

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Netflix『Tinder詐欺師: 恋愛は大金を生む』 Courtesy of Netflix

ちなみにりりちゃんはお金を男性からお金を引き出すための「りりちゃん魔法完全攻略マニュアル」という指南書を販売。公判でも、「おぢには病み営業(病んだところを見せる)」と、親しくなったら自身の生い立ちの闇を見せて気を引くよう推奨していたことを明かしていました。

お金を引き出すためには弱みを見せて同情を買えというのは、国境や性別を超えた詐欺のセオリーなのですね。