当初、大谷選手が水原氏の借金を肩代わりするため、水原氏と一緒にパソコンの前に座り、自身の口座から賭博の関係者に送金したと報道されていました。その後、水原氏はこれを撤回し、大谷選手が何も知らない間に銀行の口座からお金を窃盗したという話になっています(今回の声明でもそのような説明内容でした)。

提供:Los Angeles Dodgers/UPI/アフロ

しかしながら、大谷選手がまったく何も知らない状態で、何億円ものお金を銀行から盗み出せるのかという点についてはどうしても疑問が残ってしまいます。

米国の銀行は近年、テロ目的の資金洗浄を一掃したいという米国政府の強い意向を受け、外部への送金について異常なまでに神経質になっています。ひどい場合にはわずか1万ドル(約150万円)の送金で取引が突如、凍結されたり、普段、デビットカードを使っている州以外で買い物をしただけで、問答無用で口座がロックされるといった事態が頻発しています。当然のことながら1億円を超える巨額送金ともなると銀行側の警戒は最高水準となり、何度も厳格な本人確認、あるいは意思の確認が行われるのが普通です。

 

もっとも水原氏は1回あたり50万ドル(約7500万円)で、複数回に分けて送金したとも報じられています。一般人であれば50万ドルの送金は一発で確認の連絡が入るレベルですが、巨額の資産を持つ大谷選手の口座となれば、50万ドルはノーチェックで送金できるギリギリのラインかもしれません(この数字は金融実務を知る人からすると非常にリアリティがあると感じます)。水原氏が大谷選手のパスワードや認証ツールを盗んだのだとすると、大谷選手が知らない間にお金を奪い取ることもできたのかもしれません。

ただ、近年の米国金融システムにおける厳しい現状を考えると、(あくまで一般論ですが)何億円ものお金を気づかれずに別口座に送金することは至難の業です。ここまでの犯罪を水原氏一人であっさりと実行できるものなのか疑問が残ります。

あくまでの仮定の話ですが、心から信用していた水原氏が窮地に陥ったのであれば、大谷選手が「助けたい」と考えるのは自然なことといえるでしょう。結果的に水原氏の借金を肩代わりする形になったのであれば、「うかつだった」として、正直にその事実を話した方がよいと思うのは筆者だけでしょうか。

今回、お金を窃盗されたという公式声明が出た以上、これが大谷選手サイドから正式な見解ということですから、私たちとしては、これが真実であり、後から違う話が出てこないことを祈るしかありません。

前回記事「佐々木麟太郎選手のスタンフォード進学に水を差す人たちが出てくる理由。日本の“スポーツ推薦”とはまるで違う、世界の一流大学の選抜方法とは」はこちら>>