嫌な女の典型的イメージは、世代・性別を超えて根深く浸透しているが…


女子アナの幽霊の出没圏は、かなり広いようです。目撃者は中年世代だけではありません。以前、一人で入ったお寿司屋さんで、カウンターの隣の席に座った若いカップルが、結婚を発表した女性アナウンサーの悪口で盛り上がっていました。やっぱ女子アナあざといよねえ、と。別にそれでデートが楽しくなるならいいでしょう。本人には聞こえていないのだし。ただ、ネットに書き込むと嘘の拡散と誹謗中傷になるので要注意です。

「女子アナじゃなくてよかった!」「女子アナ妻ならうまく立ち回ったのに」都合のよすぎる「嫌な女」ファンタジーの正体【小島慶子】_img0
写真:Shutterstock


また、ある大学でオンライン講義をしたときには、アナウンサーという職業に関してミソジニー丸出しのコメントを書き込んだ学生がいました。看過できないと指摘しましたが、講義中に匿名掲示板のようなコメントを平気で書き込む若者がいることに驚きました。

ある男子校で講演をしたときにも、女性アナウンサーへのネガティブな先入観があることがわかりました。もっとも高校生たちは、素直に「印象が変わった」などと感想を書いたり質問しに来てくれたりしたので可愛いのですが、それにしても“女子アナ”という呼称に込められた女性蔑視の浸透ぶりはなかなか根深いです。テレビっ子世代でもないのに、どこでそれを学習したのか。ネットの記事か、それとも親世代との会話ですかね。お子さんがいる人は、試しに“女子アナ”という言葉から思い浮かぶイメージをお子さんに聞いてみてください。
 

 


女子アナの幽霊は、恐ろしいのです。取り憑いたらなかなか離れません。一度取り憑かれると、女性がみんな“女子アナ”に見えてきます。東海道四谷怪談で伊右衛門の行く先々にお岩さんが現れるように、あらゆる女性の中に卑しい“女子アナ”がいるような気がしてくるのです。これを別の言葉で、女性蔑視とかミソジニー(女性嫌悪)と言います。

幽霊は一体、どんな姿をしているのでしょう。あざとい“女子アナ”への嫌悪感を煽るような記事を読んでいる時、あなたの頭の中には誰の顔が思い浮かんでいますか。特定の女性アナかもしれないし、もしかしたら職場の後輩の顔かもしれませんね。あるいはかつての自分かもしれない。目立つ仕事をしている女性たちに対する嫌悪感や蔑みの形をとって、実はその眼差しは女性全般、ときには自分自身にも向けられているのです。

もしもあなたがなんとなく“女子アナ”はいけ好かないとか、性格が悪そうだと思っているなら、それは自然なことです。きっとネットで例の幽霊に何度も遭遇しているでしょうから。もしもあなたがフェミニストで、“女子アナ”が大嫌いなら、まんまとセクシストの罠にかかっていることになります。あなたが嫌っている“女子アナ”は、まさにそうやってミソジニーと女性蔑視を植え付けるために生み出された虚像だからです。

幽霊の正体見たり枯れ尾花 (幽霊だと思って怖がっていたら、実は枯れたススキの穂だった)という言葉がありますが、“女子アナ”の幽霊の正体は、なんなのでしょう。