実際、筆者は米国の中小企業の実情を見たことが何度もありますが、子供の都合で休暇を取ったり早退する社員は多く、顧客対応の担当者も毎日のように変わっていました。しかしITツールを駆使して業務の引継ぎを行うことで、肩代わりした社員は何の問題もなくスムーズに業務を継続できていました。

当然のことながら、こうした体制の構築にはコストがかかるわけですが、困ったことに多くの日本企業ではそのコストを捻出できていません。その理由は、日本企業の労働生産性が米国やドイツの半分程度しかないからです。生産性というのは抽象的な言葉なので、もっと分かりやすく言うと、生産性が半分ということは、米国の企業では5人でできる仕事を、日本では10人もかけてやっていることを意味しています。

日本人の職務能力が米国人の半分しかないということはあり得ませんから、日本の組織には多くのムダが存在していることがわかります。このムダを削減できれば、業務に余力が出てくるので、その余力を子育て社員の支援に回せるはずです。

このような仕組みを構築するのが経営者や管理職の仕事ですが、一部の日本企業ではマネジメントが機能しておらず、何も考えずに機械的に子育て支援策を導入しています。しっかりとした業務設計を行わず、ただ子持ちの人は休んで良いというだけのずさんな仕組みを導入してしまえば、周囲の人が不満を持つのは当然の結果と言えるでしょう。

写真:Shutterstock

日本社会では、後先考えず制度を導入し、結果として不都合が発生。制度自体が否定されるという本末転倒な光景があちこちで繰り広げられています。

 

先ほども説明したように、子育て支援はもはや国家全体の問題であり、組織内の問題で済まされる話ではありません。今回ばかりは、中途半端に制度を導入して失敗するという事態は絶対に避ける必要があるでしょう。

繰り返しますが、諸外国では、とっくの昔に子育て社員をサポートする仕組みがシステム化されており、何の問題もなく実施できています。 諸外国の企業で当たり前に実現できていることが、日本でだけ実現できないというのはおかしな話です。

合理的な業務を設計できない経営者はその地位に就く資格はありません。すべては企業のマネジメントの問題であり、この点について、政府も強く指導を進めていく必要があるのではないでしょうか。

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