「お金がない」はお金持ちの特権
「え!? どうして? この前の英語のテストだってすごく良かったし、それにあの研修、事実上修学旅行みたいな感じでみんないくんでしょう? お金のことだったら……ママ、今頑張ってるから」
流花が軽井沢にいる間に、私は教育ローンや奨学金についてネットで必死に調べた。大学受験のためにと現金を必死でとってあるけれど、それを今削って、大学では奨学金を借りるという方法も検討していた。とにかく、経験やチャンスは学生時代に価値があるはず。語学研修のようなものはきっとなおさら。大人になっていくら挽回しようとしても、一度固定された格差を覆すのは難しい。
私のように。
「あのさ、ママ、あの研修、1カ月で120万円だよ? 絶対それじゃ済まないし。お小遣いとか買い物とか。それに、みんなで同じ学校の寮に入るなんて、いくら名門校でも授業以外は日本語でしゃべっちゃうよ。それで120万円もったいなくない?」
「そんな、そりゃそうだけど、でもみんないくんでしょ? お金のこと、気を遣ってくれてるのよね、ごめん……」
流花は呆然と立ち尽くす私の傍にやってきて、ガスコンロの火を止めた。フライパンから、パンケーキをお皿に移し、テーブルに運ぶ。それから私に手招きして椅子に座らせると、キッチンカウンターでマグカップを二つならべて麦茶を注いだ。
「いや~そんな大げさな話じゃないよ。ママ、落ち着いて。あれべつに強制じゃないし、行かない子、ほかにもいるから」
「でも、お金がないのが理由で行かない子、いないでしょう?」
お金がない、高すぎる、と簡単に口にできるのは「お金持ちの特権」。私たちが高い、と言えばそれは本当に払えないという意味なのだから。
「えー、みんな人のことなんて気にしてないよ。自分のことで一生懸命だしね。第一そんなことではぶるような友達、いないから! それよりさ、ママに見せたいものがあるの」
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