エッセイスト・小島慶子さんが夫婦関係のあやを綴ります。

 

インスタで相互フォローしている人がお気に入りの万能タレを紹介している投稿を見たら、涙が止まらなくなった。タレがすごいからじゃない。BGMがマッキーの『No.1』だったからだ。マッキー、そう槇原敬之、私の青春のBGMである。
 

 


マッキーが歌っている「世界一素敵な恋」がどんな恋かなんて未だに私は知らない。だが、20代の私はそういうものがありそうな気がしていた。世界ってまあ言ってみれば自分の脳みそなわけで、自分史上最高の恋がしたいという望みは誰しも抱いたことがあるだろう。

で、例のタレのインスタ投稿を見ながらポタポタと涙が足に垂れたのは、もう世界一を目指すことができないと思い知ったからだ。私にはもう「次」はない。その底抜けの寂しさよ。これがみうらじゅんのいう“老いるショック”か。明るく「老いるショ〜ック!」と笑う余裕が欲しい。 歌を聞いて反射的に思い浮かんだのは夫の顔だったけど、ええとちょっと待てよ、この曲が発売されたのは93年だから、まだ夫とは出会っていない。とすると最初にこの曲を聴いたのは、誰と付き合っているときだったんだ?