楾 権力とは濫用されがちなものです。例えば権力を批判する人に対して「俺の悪口言ってんじゃねえよ!」と噛みつくとか。憲法はそういうことができないように、権力者を縛るものです。権力が私たちのために使われるように、私たちと国家権力との間で交わす約束事、これは「社会契約」と呼ばれていますが、その契約書のようなものが憲法です。私の著書のタイトル『檻の中のライオン』は、「国家権力=ライオン」「憲法=檻」に例えたものです。

 


渥美 9条の「平和主義」も大事ですね。

楾 9条というと、変える変えない、右だ左だ、という話になりがちですが、軍事力というライオンを憲法という檻で縛ってコントロールする、という立憲主義の考え方は、立場を超えて共有しないといけません。
 


9条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
 
 


立原 近年はこのあたりの解釈がすごく流動的になってきていますよね。

楾 9条について、かつての政府解釈は、日本を守る「個別的自衛権」は合憲、他国を守りに行く「集団的自衛権」は違憲、というものでした。これを前提に、集団的自衛権を行使するには改憲が必要だと考えられていました。ところが2015年、安倍政権下で、改憲することなく、集団的自衛権の行使を容認する安保法制が成立しました。全国すべての弁護士会が、これは憲法違反だと指摘しています。ライオンが檻を破って外に出てしまいました。

【『虎に翼』でも話題の“日本の法”】とりわけ重要な“条文”と、その“意味”とは? 『檻の中のライオン』著者・楾大樹さんが詳しく解説。<日本一わかりやすい憲法の授業②>_img0
 

※集団的自衛権自国が武力攻撃を受けていなくても、同盟国など密接な関係のある他国が武力攻撃を受けた場合、これに反撃する権利。国連憲章第51条で認められているもの。日本では、憲法9条2項により「交戦権」を否定しており、2014年6月までは「集団的自衛権の行使は違憲」という政府解釈だったが、安倍政権により覆された。
 


楾 安倍政権下で檻から出たライオンが、岸田政権下でさらに遠くへ行こうとするような動きもあります。例えば敵基地攻撃能力。日本が、他国の領域まで届くミサイルを保有するということです。これまで政府は、敵基地攻撃能力の保有について、「法理的には」可能としつつ、「現実の問題として起こりがたい」「平生から他国を攻撃するような、攻撃的な脅威を与えるような兵器を持つことは憲法の趣旨ではない」として、否定してきました。ところが、2022年12月、岸田内閣はこれを保有することを「閣議決定」し、ミサイル部隊の配備が南西諸島で進んでいます。集団的自衛権と敵基地攻撃能力を掛け合わせると、他国を守るために、日本から他国の基地へミサイルを飛ばす、ということになります。もはやなんでもありになってしまいかねません。

「9条を変えるな!」と言うことも大事ですが、9条が変わらなければそれでよいかというとそうではなく、檻は変わっていないけれどもライオンはすでに檻の中にいない、というような状況です。

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ライオンはすでに檻から出てしまっている……?

立原 どんどんなし崩しに変えられて、防衛費ばっかり増えて……。個人的には少子化対策とかにもっとお金をかけてほしいです。

 そう、お金の問題もありますね。防衛費がどんどん増えています。防衛費のために増税するのか、という問題もあります。