平穏な日常に潜んでいる、ちょっとだけ「怖い話」。
そっと耳を傾けてみましょう……。

 

前編のあらすじ 朋子(51)は夫の悟志(60)が定年を迎え、毎日家にいることになり戸惑っている。元上司で9歳上の夫は、頼りがいがあると思って結婚したものの、今ではすっかり横柄に感じられて疎ましい存在に。根底には、過去に悟志が不倫をしていた記憶がある。過去の傷も相まって、反発心が募っていく朋子だが……?

前編はこちら60歳で定年した夫が毎日家にいる...!9歳年下の妻が夫に対するリスペクトを失った理由とは?>>


第67話 アフターオシドリ夫婦【後編】

「夫に監視されてる…?」9歳年下の妻に、還暦夫がしのばせた「あるモノ」。疑惑が招く思わぬ結末_img0
 

「え? この丸いの何?」

最近始めたスポーツジムのヨガクラス。終わったあと、ロッカーでリュックを取り出そうとして逆さにしてしまった。中身を拾い集めていると、足元に見慣れない丸いおはじきのようなものが落ちている。

「あ、エアタグ、いいなー。結構高いですよね。私、正規品じゃないやつにしちゃいました。酔ってお財布失くしがちだから、GPS必須なんですよ」

「GPS?」

一緒に着替えていたヨガ仲間の言葉に、私は思わず振り返った。私は聞きなれない単語に戸惑いながら、白くつやつやと光るコインのようなそれを掌に載せた。

「PCバッグなんかに入れておくと、万が一どっかに忘れてもすぐにスマホで探せるんです。地図上で、位置情報が出るから。え? 朋子さんのタグじゃないんですか? じゃあ……旦那さんが入れたんですよきっと。束縛? みたいな? やだー! 朋子さん、愛されてる!」

まだ30代の主婦、由実ちゃんはケラケラと笑いながらメイクのために鏡のほうに行った。

……笑いごとじゃない。

私はぞっとして、タグを思わずロッカーに放り込んだ。いつから入っていたんだろう?

こんなものを私に内緒でバッグにいれるなんて。本当に悟志さんなんだろうか? そんなタイプじゃなかった。妻への関心は薄いほうだったのに。自分が会社にいた頃は、私がどこにいくかなんて気にする素振りはなかった。それなのに急に、内緒で監視するようなまねをするなんて……。

私は言いようのない複雑な気持ちになっていく。