悟志さんから電話が入っている。着信時間は20時。1時間前だ。夕食をとっていて、気が付かなかった。「ちょっとごめん」と断って、身を屈めながら急いで折り返してみる。しかし電話には出ない。

2度、3度と電話をかけるが反応はない。

「どうしたの? 旦那さん出ない? お風呂でも入ってるんじゃないの?」

沙織が眉を顰める私に声をかけた。

「お風呂……でも、今日は同窓会で、18時半からだから、まだ外にいると思うんだけど。20時に電話をかけてきたってことは、少し早く出たところでかけたのかな? でも何だろう? 私は沙織と晶子と一緒だってわかってるのにな」

長年夫婦をやっていると、大体行動パターンはつかめる。私がどこかへ行くまでは文句を言うけれど、いざ行ってしまえばあまり出かけている間に電話をかけてくるタイプでもなかった。

「もしかして具合が悪いとか!?」

私は焦ってもう一度かけてみるが、また反応はない。念のために自宅の電話も鳴らしたが、同じ。

なんだか気になる。脳梗塞で倒れたときの様子が脳裏に浮かんだ。

「夫に監視されてる…?」9歳年下の妻に、還暦夫がしのばせた「あるモノ」。疑惑が招く思わぬ結末_img0
 

「いやいや、大丈夫だって、携帯転がして寝ちゃったとかじゃない?」

沙織が私を安心させるように、ピスタチオが入ったお皿をこちらに勧める。

「そ、うだよね……。ああ、こういうとき、悟志さんがどこにいるかそれこそGPSで分かればいいのに!」

 

「そうねえ~、うちの子どもたちみたいにスマホでファミリー登録して、居所通知オンにしてればわかるけど、朋子そういうの疎いからしてないでしょ? ちょっとスマホ見せて」

晶子がひょいと私のスマホを受け取って、日頃私がタップしたことのない「探す」という緑のアイコンを開いた。

「やっぱりファミリー登録はないねえ。ん? でも、持ち物タグがひとつ、有効になってるよ!」